ヨーゼフ・ボイスについて

Joseph Beuys

ボイスとは何だったのか。これが、ボイスの作品に出会ってから繰り返された、僕の疑問だった。
そのためにドイツへ行き、シュタイナーを勉強した。

ボイスとは、人間の本質を探究し世界の秘密にたどり着いた一つの精神だった。
人間は悩み、そして行為するという創造性の秘密そのものだったことを、気付いた人だった。
人間はその本質の状態で生きるために、自由を勝ち取らなくてはならない。
人間は自由の中でしか創造性を発揮できない。
そしてそれは、自分を自分で律しなければたどり着くことはできない道であることをボイスは表現した。

ボイスの作品はエネルギーを持っている、それはテクニックや理論で証明できるものではなく、起きたことそれ自体だった。
そしてそれこそが人間の神秘だった。


日本の状況の中では(そしてそれは同時に世界の状況でもある)他律の状態があたりまえのようになってる。
この状態では人間の創造的エネルギーはどんどん失われていく。
この事の深刻さは、エネルギーを失っていく状態の人間にはそれを認識できないことにある。
認識するためには思考しなくてはならない。
思考は記憶することによって自由さを失う。
新しい問題にそれを記憶することによって当たることは無意味なことだ。

深く悩まなくてはならない。そして明るく立ち向かわなくてはならない。
他律社会を克服するにはすぐにでも自律の試みを実践の中でおこなって行かなくてはいけない。
失敗したときでは遅すぎる。
日本は今とても良い状態にある。それはカオスの状態。これは未来に向かう可能性をもっている。

1997年3月25日火曜日