胃がんと塩分の濃い関係

 日本では胃がんの発病率が高く、いわゆる日本的な生活習慣が胃がんと密接に関わっていることが考えられる。国際対がん連合の統計によれば、1988年から92年までの人口10万人あたりの胃がんによる死亡率は日本の男性で34.5人、女性で19人で、いずれも調査対象となった28カ国中最も高い。逆に最も低いのはアメリカ(男性で5.1人、女性で2.3人)、ついでカナダ(男性で7.5人、女性で3.3人)で、欧米的なライフスタイルが大きな原因といわれる大腸がんとは順位が逆転している。

 

 その主な原因が人種的な体質の差でないことは、海外に移住した日系人の追跡調査で示された。ハワイに移住した日系人の間で胃がんの発病率を調べると男女とも1世、2世と世代を経るにつれて大幅に減少し、またサンパウロに移住した日系人ではゆるやかに減少している。この研究を90年に「キャンサー・コージズ・コントロール」に発表した国立がんセンター研究所支所臨床疫学研究部の津金昌一郎部長は、ハワイ移住者の間では速やかに当地の生活習慣が取り入れられたのに対し、サンパウロの方では後々まで日本的な生活習慣が守られたことから、胃がんの原因はやはり食生活などの環境要因が大きいと考察している。

 

 もうひとつ胃がんの統計的な特徴として、撲滅のための明瞭な対策がとられた訳ではないのに発病率、死亡率とも各国で減少し、日本でも60年代に比べほぼ半減していることがあげられる。

 

 これらの地理的、時間的な胃がんの分布と動きが重なるのが、食塩の摂取量である。胃がんの多い日本人の食塩摂取量は世界ランキング最上位にある。また冷蔵庫が普及し流通システムが整備されるにつれて各国で食塩摂取量が減少しているが、これと平行して胃がんの発生率も年々少なくなっている。逆にいえば、食塩の摂取量を減らせば、胃がんになるおそれが減る可能性がある。実際、食塩の胃がん発生作用は様々な研究者によって追求されていて、米国のシャーンレー博士らは1985年の「キャンサー・リサーチ」で、ラットを使った動物実験の結果、食塩の作用で胃の粘膜が損傷し、細胞分裂が促進され、その結果がん発生の危険が高まる可能性があると報告している。

 

 

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