本当に『和』の外交でいいのだろうか?


   久保憲一/1999-9-03

すべて物事はコインの表裏のように長短併せ持つ。長所は短所、短所は長所になり うる。人により、結果によって物事の評価は全く逆転する。例えば、忍耐は強情・貪 欲に、質素倹約は吝嗇に。鷹揚は鈍感に。決断力は短慮に……という具合にである。
 もちろん我が国の政治原則の「和(=共生)」も長短併せ持つ。「みんな仲良 く、共に手を携えて進もう」ということは、わが国の理想であり、美徳であろう。
 実際、日本国には、いざとなれば挙党・挙国一致体制を実現しうる「家族」的な 雰囲気がある。事実、数年前、自公社は選挙公約や政策の相違(正反対のイデオロ ギー的差異)にもかかわらず野合した。昭和天皇崩御時の日本社会は、外国人から見れ ば薄気味悪いほどのの「自粛」風景であった。阪神大震災時の被災者の比較的秩序を もった態度は韓国やロシアはもちろん、世界中を驚嘆させ、敬服させた。
 現在の我が国では労働者のゼネストは皆無である。これが今日の日本の経済的繁 栄をもたらした。わが国では、二、三日もゼネストが続けば、その闘争は瞬く間に一 般庶民の支持を失ってしまう。とりわけ今日のような不況下では、「会社(親方)が 潰れれば元も子もない」という理由で、賃金闘争もあっさり妥協してしまう。ゼネス ト社会のイギリスなどから見ると、日本はなんとも奇妙な国となる。「ミラクルな社 会」「家族的」単一民族社会、日本。

 反面、気をつけねばならない。日本は「和(=共生)」の国。すなわち性善説社 会である。本気に「諸国民の公正と信義に信頼」する「お人好しの国」ということに もなりがちである。国際連合、ODA、IMFなど、わが国は国際的貢献度の割に国 際的政治力を持たない。韓国などの経済破綻国救済に世界最大の貢献をしながらも、 これら当事国から、日本は相応の評価と謝意を受けていない。
日本社会の美徳「謙虚さ」も「顔の見えない日本」となっている。アングロサクソ ンの国々や中国などの厚かましい行動とはまさに対照的である。英仏はわが国国民 総生産のもはや半分にすぎない。すでに一線を退いた国力にもかかわらず、 依然として国際政治の表舞台において出しゃ張っている。

 かつて日本人は「八紘一宇」という高邁な理想を掲げていた。国際連盟でも人種 平等を訴え、大東亜共栄の旗の下、西欧列強のアジア植民地支配に抗した。時が移 り、今日でもその発想はあまり変化していない。しかし国際社会の理想と現実は極めて 乖離している。「地球社会」「人類共生の社会」「世界は一家、人類は皆兄弟」の社 会などは、あくまで理想にすぎない。わが政府は国際機関(国連など)の理念を鵜呑み にし、「多国間等距離外交」とやらを今なお頑なに実行している。わが国を愛してくれる 国には案外つれない態度をとり、反面、厭味をいう様な国を厚遇する。そして高邁な「和 (=共生)」の理念が現実の国際社会に通用すると信じ切っている。

 アメリカなどの多民族社会は、性悪説社会。もちろん契約で成り立つ社会。他人 を信用しない訴訟社会。当然、憲法も日本の憲法とは違い、実用的なものである。合 衆国憲法は「契約書」である。アメリカは各種のパワーの均衡(「牽制と均衡」の理 論)によって成り立つ社会である。しかしながら、冷戦終了後、社会主義国の崩壊 と共に、WASP(=白人、アングロサクソン、プロテスタント)の一部エリートに 富が集中しはじめている。
 ヨーロッパ、とくにイギリスは、そもそも国王から権力を剥ぎ取り(革命)、 「奪権の証文」を無理やり国王に書かせた歴史を有する社会である。現在でも、頻発す る業種別ゼネストに見られるように、経営者に対する労働者の見方は相変わらず「ヤ ツらとオレたち」、いまなおイギリスは階級闘争に明け暮れる社会であり、アメリカ 同様、性悪説社会なのである。国際社会はもちろん多民族社会、性悪説社会である。

 我々、日本社会や日本人が現在、良かれと思ってやっていることも、時には相手 国にいらぬお節介に映るかもしれない(例えば、アジアへの西洋人権思想の押しつけ 、またインドの核開発停止要求)。わが国の生き方を他国に押しつける必要はない ように思われる。また、日本人同士がしばしば相手を傷つけまいと<「逃げ道」の 方便に使う「黙殺」も国際社会では「イエス」と受け取られることがある。しかし、 今次の戦争の開戦時、終戦時もそうであったが、外務省は今だに懲りずにしばしば いらぬ「お節介」や「黙殺」を行っているようである。

 ともかく、明治以来、小村寿太郎など、一、二の例外を除き、イギリス、フラン ス、中共に比べると、(決して自虐史観というわけではないが)わが国の外交について は、お世辞にも巧いとはいえない。人種、民族および宗教紛争が皆無といってよい温室育 ちの日本人は国際政治の分析については一般的に甘すぎる傾向がある。
我が国の政治家・外交官僚は「力の外交」「バランス オブ パワー」政策を押し 進めた現実主義者・キッシンジャー(ユダヤ系アメリカ人)の爪の垢をもう少し煎じ て飲むがよい。

水廼舎(久保憲一)

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