490−2.中国の一党独裁について



はじめまして。中国の武漢に留学中の漢語迷と申します。このコラ
ムが主催者の方々と違う立場の意見も掲載する懐の広さを持ってい
ることに非常に敬服します。
さて、このコラムでは中国についてふれられることが非常に多いの
で、中国にいる者として、いくつか意見を述べさせていただきたい
と思います。
まず、このコラムに投稿されている多くの方が「中国は一党独裁=
全く言論の自由がない=政府筋の情報以外は知るよしもない」と単
純に考えられているようですが、これには誤解があります。中国が
一党独裁であること、このため、報道など公の場で共産党中央を批
判したり、共産党と違う見解を述べることにはかなりの制限がある
ことは疑いのないことです。しかし、普通の日常生活においては、
言論は基本的にはほぼ100%自由であるといっていいでしょう。

大学の授業においては先生は好き放題にものを言っています。例え
ば「李宏志(法輪功)を中国政府は批判するが、個人崇拝という意
味で毛沢東がやっていたこととどこが違うんだ?」「君たち、南京
大虐殺で30万死んだというが、大躍進で何人死んだか知っているか
」などといった言葉が飛び交っています。一党独裁を批判する見解
はもちろん、中国革命そのものを公然と批判する先生すらいます。
大学以外の場で言うと、例えば電車の中で共産党員の友人が共産党
を批判するなどということはごく普通のことです。僕は中国人と何
度も政治的な問題について電車の中で大声で討論しています。

この点、制限があるとすれば少数民族の方たちでしょう。ウィグル
族の友人は漢族との間の問題を語ることにかなり慎重でした。
(中国の少数民族がおかれている実態に興味がある方は僕の日記を
よろしかったら読んでみて下さい。)
http://www1.odn.ne.jp/kumasanhouse/kangomei/index.html

したがって、中国人が中国政府の見解に大きく左右されるのは言う
までもないことですが、「中国人は中国政府の見解以外は知るよし
もない」「中国には全く言論の自由がない」というのは、想像の産
物でしかないということを申し上げておきます。
中国には多くのこのコラムに投稿される方の想像とは違って、柔軟
な考えを持った人たちがたくさんいます。ある先生は「中国人は日
本の侵略などの批判はするが、大躍進・文化大革命などで自ら犯し
た罪はすぐに忘れてしまう」と、中国人の「歴史健忘症」を授業で
痛烈に批判しました。ここで、誤解しないでいただきたいのは、彼
が決して日本の侵略(僕もそう認識しています)を決して軽く見て
いるわけではないということです。彼は日本への留学経験があり、
その際にある老人がバーベキューをやりながら中国での戦争体験を
自慢げに語るのを見て、日中間にある戦争認識の絶望的な溝を感じ
ると同時に、怒りを感じたと言います。しかし、彼はそうであるに
もかかわらず、なおかつ中国人自らを痛烈に批判しているのです。
僕はこの懐の深さに敬服せざる得ません。僕は多くの日本人は彼の
ような懐の深さに学ぶ必要があると思います。
彼は「歴史健忘症」はアジア人に共通した特徴だ、と言います。僕
もそう思います。
「日本は過去そんなに悪いことはやっていない。中国はこんなに
ひどいことをやっている」と他国・他民族の罪悪だけを批判し、
自国・自民族の罪悪を顧みない人が日本にはどれだけ多いことでし
ょうか。(もちろん、同様な中国人も沢山います)僕はこの先生の
ような心の広さを持った人が日中双方に増えていくことを望んでい
ますし、またそれが最終的には日中双方の利益になると思います。

ついでながら、チベットの問題に触れさせていただきます。一つ指
摘したいことはこのコラムで過去の日本の侵略を擁護される方の意
見と現在の中国政府がチベットや新彊に対する支配を正当化する論
理は酷似しているということです。僕が中国人にチベットや新彊の
ことを問題にすると必ず彼らは「チベットや新彊は不毛の地で一番
貧しい地域だ。独立してやっていけるわけはない。中国政府が大量
の金を彼らのために投じて、開発を進めているから何とかやってい
けるんじゃないか」と言います。そして、これはある程度事実でし
て、現在も皆さんご存知の通り、「西部大開発」ということで、こ
れらの地域の開発にまたまた大量の資金を投入しているわけです。
こうして、中国政府としては「我々はこんなにチベットや新彊のた
めにやっている。たくさんの彼らだけでは決して作れない近代的な
設備も作った。これは彼らのためではないか。彼らの役に立ってい
るではないか。なにが悪いのだ」ということになるわけです。
いつの時代も支配する側の論理というの同じです。もし、この論理
に納得がいかないのだったら、同じ論理で過去の日本を擁護するの
は止めるべきだと思います。逆に日本をどうしても擁護したいのな
ら、「中国のチベット侵略」などいう言い方はやめた方がいいと思
います。
つまり、ここでもやはり「私は悪くない、あなただけが悪い」とい
う偏狭な見方はやめた方がいいということです。
東京裁判は僕も不公平だとは思いますが、それも「お前らも裁かれ
ていないんだから、俺も裁かれる必要はない」という論理ではなく
、「俺は裁かれるのは当然だか、お前らも裁かれなければならない
」という論理で批判していく必要があるのではないでしょうか。
このコラムを読む多くの方には受け入れ難い意見であるのを承知の
上で書きました。何かご意見がありましたら、いただけたら幸いで
す。
他にも教科書問題などいくつか触れたい問題はありますが、長くな
りましたので、今日はこの辺までにさせていただきます。
漢語迷
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(Fのコメント)
日本の中国侵略は事実ですから、この事実を捻じ曲げることは、で
きないと思います。しかし、その時代の帝国主義的考えが、当然の
ようにあったのも事実です。この事実の見方が中国と日本で違うの
です。史観の相違ですね。

私は、事実の確認は両国の歴史家が、議論することであると思いま
すが、史観の相違は議論してもしょうがない問題です。これは、
中国と日本が歴史的な立場と異にしているからで、日本が元寇の役
を非難するのと同じですから、無意味なことであろうと思います。

中国の現状は面白いですね。私も、中国の人と議論しますが、本当
に自由に議論していますね。しかし、中国は人治ですから、法律が
時々何の前触れもなく変更されるようです。法治主義とは違うこと
も事実です。所有や権利関係の法律を中国では勝手に変更できるた
め、たいへん迷惑している外国企業が多いと思います。勿論、お役
人にはワイロを送ることをしないとですがね。資本主義社会とは違
うということも事実ですね。


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