YS/2000.03.05 平成12年3月2日役員改選が行われ日本長期信用銀行は「新生銀行」 として新しく生まれ変わることとなった。 新役員は日米エスタブリッシュメント・オールスターズとなっており、 世界中のコンスピラシー・セオリー(陰謀理論)支持者の注目を集める ものとなっている。この分野からもさまざまな考察が行われる事が予測 されるが、ここではあくまでも企業・政治戦略上の見地に立ちそのメカ ニズムに迫りたい。 注目すべきは米国インナー・サークルの頂点に立つ3人の役員就任であ る。 筆頭はデビッド・ロックフェラー氏である。スタンダード・オイル創業 3代目の誰もが認めるロックフェラー家の継承者である。ロックフェラ ー一族が管理する財団、基金の事実上の責任者でもある。1969年か ら1980年までチェース・マンハッタン・バンクのCEOを務め、辞 任後もヘンリー・キッシンジジャー氏と共に同銀行の国際諮問委員会の 会長として支えている。また米外交政策立案機関として有名な外交問題 評議会(CFR)議長を長く務め(現在は名誉会長)欧米主要政財界人 で構成されるビルダバ−グ会議や欧米日三極委員会(TC=トライラテ ラルコミッション)を主催している。 民間企業の役員就任は1980年以後20年ぶりとなる。昨年から就任 要請の噂は絶えなかったが、今年85歳という年齢的問題からも実現す るとは考えられなかった。 またシニア・アドバイザー就任のふたりもロックフェラー氏同様にビル ダバ−グ会議や欧米日三極委員会、外交問題評議会の役員を務める大物 である。 元連邦準備制度理事会議長であるボルカー氏は富士銀行やトヨタ自動車 のアドバイザリーボード(社外顧問会)メンバーに就任しており日本財 界に以前より強いパイプを有していた。また社外取締役として参画して いるネスレはヨーロッパ財界団体であるヨーロピアン・ラウンドテーブ ルの会長を送りだしており、欧米日にまたがる取締役兼任ネットワーク のコア(中核)となっている人物である。 バーノン・E・ジョーダン,Jr.氏はAkin, Gump, Strauss, Hauer & Feldのパートナー(弁護士)として活躍しユダヤ系投資銀行のラザ−ド ・フレール以外にも多数有力企業の取締役を兼任している。クリントン スキャンダルのキーパーソンとしてマスコミにも再三登場した。クリン トン大統領の公私にわたる友人のひとりである。 当初ここにもうひとりの大物ロバート・ルービン前財務長官(元ゴール ドマン・サックス会長)が加わる予定だったが辞退したようだ。現在共 同会長を勤めるシティーグループにおいて長く会長を務めた米財界の重 鎮ジョン・リード氏退任でそれどころではなかったのであろう。 この大物3人の起用は槙原 稔氏(三菱商事株式会社取締役会長)の要 請によるものと推測される。以前より欧米日三極委員会や外交問題評議 会において旧知の間柄であり1995年からのリップルウッドと三菱商 事との資本関係から願いでたものと思われる。本人は演出に徹していた かったようだが八城氏に説得され就任に至ったと思われる。また日本財 界人からもかなり反発されたようだが府立一中の同級生である今井敬氏 を口説いたのも八城氏である。 三菱商事の社長であった藤野忠二郎氏はかってチェース・マンハッタン ・バンクの国際諮問委員会に就任していたこともあり、歴史的にもロッ クフェラーグループと三菱グループとは比較的関係が深い。 (日本企業でもアドバイザリーボード(社外顧問会)や国際諮問委員会 を設置する企業が増えているが顧問的役割にとどまっている。米国では チェースにしろJ・P・モルガンにしろその権限は取締役会に匹敵する。 アメリカン・エクスプレスなどは国際諮問委員会にキッシンジャー氏を 招き対中関係強化に向けた取り組みを行っている。) 他にも米国屈指の経済学者であるマイケル・J・ボスキン/スタンフォ ード大学教授もクリントン政権のアドバイザーを務め次期政権入りが噂 されている。 今回の引受先の選定に際し長銀再生委員会は有力投資銀行であるゴール ドマン・サックスに委託したが、この担当者ユージン・アトキンソン氏 はその後リップルウッドの副社長として移籍し、今回取締役に就任した J・クリストファー・フラワーズ/エンスターグループ社副会長もゴー ルドマン・サックス出身である。 リップルウッドは他の金融機関などとともに持ち株会社「ニュー・LT CB・パートナーズ」(オランダ)を設立。この会社を通じて1200 億円を出資して「新生長銀」をこの持ち株会社の100%子会社にする。 出資する金融機関には米証券最大手メリルリンチやモルガン・スタンレ ー・ディーン・ウィッター、ペイン・ウエバー、GEキャピタル、シテ ィートラベラーズグループ、メロンバンクとABNアムロ(蘭)、ドイ ツ銀行、ロスチャイルド銀行(英)などである。 再建後はいずれかの金融機関との合併もあり得るが今のところシティー ・グループとチェ−スグループと東京三菱銀行あたりが一歩リードして いる。当然のことながらそのアドバイザーの選択に困る事はなさそうだ。 いずれにせよ再建に向けては八城政基氏の手腕にかかっている。「日本 企業初の専門的(プロフェッショナル)経営者」としてこれまでの経験 がどう生かされるか世界の注目が集まるだろう。 また公的資金投入額は4兆円に達しており、日本国民に対してもっとデ ィスクロージャーを徹底する努力は必要ではないだろうか。樋口廣太郎 氏の屈託のない解説を期待したい。 さてここまでの内容だけで先の3人が登場するわけがない。21世紀に 向けた国家レベルの再編統合の姿が見隠れしている。米日合併構想が果 たして実現するのか見物である。 東海村臨界事故による原子力政策の事実上の崩壊とアラビア石油の破談 によるエネルギー政策の抜本的な見直しが迫られ、会計基準の世界的決 定権限を握っている国際会計基準委員会(IASA)の指名委員会から もはずされている。IMF専務理事等は全く世界から相手にされていな い。社会的にも相次ぐ公職者の不祥事が連日報道されまさに現在の日本 は危機的な状況におちいっている。 「アイデンティティーなるものは勝者にのみ与えられる」世界の常識に いまだ気付いていない人がここにきて増殖している。このままでは対等 ではなく吸収統合される日も近いような気がするのは私だけだろうか。 『新生銀行新役員一覧』 (いずれもこれまでに就任した実績があることを重視しており、現時 点でのものではないことをご了承下さい) 【 取締役 】 (経歴) BG/ TC/CFR 八城政基 元エッソ石油取締役社長 × ○ ○ 会長兼社長 元シティコープ・EVP、シティ コープ在日代表、 元シティコープ・ジャパン会長 (非常勤) 槙原 稔 三菱商事株式会社取締役会長 × ◎ ○ 三菱自動車工業取締役 三菱電機取締役 東京海上火災保険取締役 IBM取締役 経済団体連合会委員 樋口廣太郎 アサヒビール株式会社取締役 × × × 相談役名誉会長 経済戦略会議議長 経済団体連合会委員 青木 昭 元日銀理事 × × × 日本証券金融株式会社 取締役会長 今井 敬 新日本製鐵株式会社代表取締役 × × × 会長 経済団体連合会会長 森 秀文 前弊行副頭取 × × × 専務 山本輝明 前弊行参与 × × × 常務 ティモシー C.コリンズ リップルウッド・ホールディングス × × × 最高経営責任者 J.クリストファー エンスターグループ社副会長 × × × フラワーズ 小川信明 弁護士 × × × 前弊行監査役 マイケル J.ボスキン/ スタンフォード大学教授 × ○ ○ ドナルド B.マローン/ ペインウエバー会長 × × × マーティン G.マックギン /メロン銀行会長 × × × デイヴィッド ロックフェラー/元チェース・マンハッタン銀行会長 ◎ ◎ ◎ Rockefeller Foundation The Rockefeller Brothers Fund Rockefeller familyFund Rockefeller Center Properties Trust 【 シニア・アドバイザー 】 ポール A.ボルカー /元連邦準備制度理事会議長 ◎ ◎ ◎ 元チェース・マンハッタン銀行副社長 Neste 取締役 Prudential Company取締役 American Stock Exchange取締役 UAL Corporation.取締役 TIAA and CREF取締役 The Group of Thirty the Aspen Institute the Japan Society バーノン ジョーダン/ラザード・フレール・アンド・カンパニー ◎ × ○ マネージング・ディレクター Senior partner in a law firm Akin, Gump, Strauss, Hauer & Feld, L.L.P. American Express取締役 Bankers Trust取締役 Dow Jones取締役 J.C. Penney取締役 Ryder Systems取締役 Sara Lee取締役 Union Carbide取締役 The Brookings Institution ×/所属せず ○ /メンバー ◎ /幹部メンバー BG/The Bilderberg Group TC/Trilateral Commission CFR/the Council on Foreign Relations