眞ん中の路地を入り、更にそ の眞ん中、疵だらけの今にも朽 ち果てそうな木の手摺りが左側 に付いた、十八段の不揃いな階 段を上り切るとその店であった。 いつも微笑んでいるママ。映 画しか頭にない長髪の男。革命 しか頭にない一見サラリーマン の男。演劇しか頭にない怠惰な 男。仲間の筈だった奴らに殺さ れた全共闘。博打しか頭にない 博徒。そんな輩を、ホワイトを 飲み乍ら醒めた目で観察し、小 説の材料にしようとする男。 醒めていながら、他人と共有 できる場所を見つけることは上 手かった。そのくせ、会話を共 有することは下手だった。 2本の劇場用映画を撮り、3 本目を二十年も撮れない映画監 |
督。相変らず演劇を作り、「相 変らず女好きですよ!」と、息 子ほど年の違う劇団員に評され ている演出家。革命を成し遂げ る!と自らに暗示をかけ、大企 業に首尾良く潜り込んだ自称革 命家。御茶ノ水の主婦の友社の 前でオレの換りに拘束され、二 十一日間入って来た東京医科歯 科大生。 そんな連中と、過日、芽出度 く小説家になった男の出版パー ティーで出会い、神田南口のや きとり屋でホッピーを痛飲した。 息詰まるような二時間は、あの ホッピーでもハッピーになれな かった、神経だけが独り歩きす るような一時代を想い起こさせ た。 ☆木下一郎 |