初めてのホッピー#3           
『ホッピーの泡とイナバ氏』   ☆深沢 薫

 どういうわけか『ホッピー』
の名称は知っていた。私は10年、
20年…といったひと昔のことだ
け、妙に記憶力がいい。73年頃、
近所の焼き鳥屋にホッピーのの
ぼりがあったのを覚えている。
でもただそれだけのことで、私
の記憶力はいつも用をなさない。
 そんな私がある日、イナバ氏
の指導?でホッピーを初めて口
にした。のぼりだけの存在であ
ったホッピーが、焼酎と混ざり
あってふつふつと口の中ではじ
ける。『なんだ飲めるシロモノ
じゃん』また一口。イナバ氏に
何か感想を言わねばならない。
『飲めますね』だけでは芸がな
さすぎる。ふつふつ、ふつふつ
…ビールほどではない、柔らか
な泡の群れとイナバ氏の無言の
   問いが、私を圧迫していた。
 ふつふつ、ふつふつ…焦りを
感じてきた。「わ、私も飲めま
す」イナバ氏はガックリきたに
違いない。「と、とにかく飲め
ます」追い打ちをかけてどうす
る!
 意味のない記憶と共に、私は
ホッピーの微かな苦い泡の中に
溶けていくようだった。
         ☆深沢 薫








              


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