どういうわけか『ホッピー』 の名称は知っていた。私は10年、 20年…といったひと昔のことだ け、妙に記憶力がいい。73年頃、 近所の焼き鳥屋にホッピーのの ぼりがあったのを覚えている。 でもただそれだけのことで、私 の記憶力はいつも用をなさない。 そんな私がある日、イナバ氏 の指導?でホッピーを初めて口 にした。のぼりだけの存在であ ったホッピーが、焼酎と混ざり あってふつふつと口の中ではじ ける。『なんだ飲めるシロモノ じゃん』また一口。イナバ氏に 何か感想を言わねばならない。 『飲めますね』だけでは芸がな さすぎる。ふつふつ、ふつふつ …ビールほどではない、柔らか な泡の群れとイナバ氏の無言の |
問いが、私を圧迫していた。 ふつふつ、ふつふつ…焦りを 感じてきた。「わ、私も飲めま す」イナバ氏はガックリきたに 違いない。「と、とにかく飲め ます」追い打ちをかけてどうす る! 意味のない記憶と共に、私は ホッピーの微かな苦い泡の中に 溶けていくようだった。 ☆深沢 薫 |