「精神障害者福祉施策再編に関する一試論」
精神保健と救護施設(生活保護制度)の比較研究を通して

1.はじめに
精神障害者の対する福祉政策が、近年充実している。精神保健では「地域精神保健対策」、「社会復帰対策」を柱にして、長く入院していた精神障害者が地域や在宅へ復帰できるようにサポートされるようになってきている。
しかし、救護施設への入所者数は、精神障害者が他の障害に較べて増加傾向にある。また、近年の地方都市福祉事務所の生活保護状況では、平成2年から11年の「医療扶助 入院外 精神障害者」の項目の年間実件数の推移で確実な増加傾向にある。
精神保健分野の充実が図られているにも関わらず、救護施設への入所が増加していることは、精神障害者に対して福祉的就労もあわせて、精神保健だけでは依然として支援ができていないことが推測される。

2.研究目的
生活保護を受給している精神障害者は、精神保健施策の遅れから制度的補完として捉えられている。しかしそのことは、精神保健と生活保護の理念の違いにより、精神障害者に対する支援が分断されている現状を指し示していると思われる。
その一方で、近年、介護保険や社会福祉基礎構造改革など、一連の改革や動向に応じて、生活保護を見直そうとする動きも活発である。このような現代の動向を踏まえ、精神保健の理念に沿いながら、現在救護施設に入所している、あるいは生活保護を受給している精神障害者が、制度としての壁を越えて支援がなされるにはどのようにすればよいか。その阻害要因を明らかにしながらも精神保健と生活保護の施策の連関の可能性を探る。
このことは、取り残されていると論じられている救護施設の役割を、現在でも精神障害者にとって不可欠なものとして、または、立ち後れているとされる精神保健分野を新たな制度との結びつきの中で捉え直す視点を提示することができると思われる。

3.研究対象

1.制度としての精神障害者
〜救護施設と精神保健に関わる精神障害者(利用者あるいは生活者)として捉え、制度的な捉え方の違いを考察する。(医学的に定義されたものが制度として介入しているが、精神分析における学派の解釈の違いや病状の気質的な特徴などを詳細に比較して捉えるのではなく、制度の目的と対象の設定の背景や違いに注目する。)
2.精神障害者にかかわる従事者
〜各々(救護施設・医療機関・保健所・作業所等)の領域によって精神障害者への対応、捉え方や認識が違うと思われる。このことは制度の違いの実態を体現していると思われる。

4.研究方法

1.精神保健の施策の現状と課題
を把握するため、地元の保健所、医療機関などに対し、利用者や従事者からヒヤリングを行い、各領域から統計資料などを収集する。また、近年の福祉改革の動向を先行研究などから、精神障害者に対する施策の背景にある理念や施策の将来的な展望を考察する。
2.救護施設に入所している、または生活保護を受給している精神障害者の現在の制度的な阻害要因を明らかにするため、福祉事務所や救護施設から資料を収集し、及び、ヒヤリングを行う。あわせて先行研究や関連する諸研究から分析を行う。
3.1.2.より、精神保健と救護施設(生活保護)における精神障害者の施策の現状と展望を整理し、比較研究を行う
4.精神保健制度及び生活保護制度(主に救護施設)の各々のもつ精神障害者観や援助方法に関わる理念の推移、施策の動向を実証的に明らかにする。(施策に通底する理念の推移などを、利用者の視点に立って、どの点が阻害、改善されてきたのかまたは未整備なのかなどを検証する)
5.以上を踏まえて、精神障害者(利用者)の視点に立った新たな社会福祉援助の創出を図るという観点から、精神保健制度及び生活保護制度の相互の連関と、再編の必要の有無についての具体的な仮説を提示したい。

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