生活保護における自立と精神保健福祉における自立観などについて
生活保護における自立助長について
生活保護法では、第一条で憲法25条の生存権の保障とともに、自立の助長がうたわれている。この自立助長と最低限の生活の保障についての解釈については、さまざまな見解や論争があるが、自立の助長は、単に就労指導に留まるものではないはずである。貧困に陥っている様々で個別なケースについて、経済的、社会的、または心理的、身体的などトータルに自立が果たせるように処遇することであると思われる。それは、貧困の状態からの脱出であり、一般就労へ結びつける様々なケースワークであると考える。
資本主義社会において、労働によって賃金を得るという行為のみが唯一の収入である以上、一般就労に結びつけないことには貧困の状態になる。自立とは、社会的にも経済的にも賃金や手当などによって充足され、人並みに生きているという実感を伴うものではないだろうか。
福祉事務所で行う「自立助長」とは、主に稼働能力のあるものに対する就労指導を指していることが多い。精神障害者は、労働市場から離れた存在として、あるいは要看護ケースとして捉えられて、他方他施策に委ねている部分が多いと言える。
精神障害者などの障害者運動が積極的に生み出した総合的なリハビリテーションやノーマライゼーション思想の普及は、「生活保護を活用して自立生活」を地域社会で行うという考え方がある。しかし、資本主義社会の労働力の売買を基本とした生活の自助原則に支配されて、むしろ障害者であっても労働や地域生活を切実に望みながら、生産性や効率性に反する理由から個人的または社会的に隔離・排除することにより、逆にその自立生活の要求や権利が保障されない現実の方に問題があったはずである。そういった意味でも、権利主体者としての健康で文化的な生存権を社会福祉・社会保障制度その他の社会資源の積極的利用を通してこそ、資本主義社会の中で精神障害者などを含む全ての労働者国民の自己実現や社会参加を内実とする自立論こそ、社会福祉の現実的理念といってもよいと思われる。
このことについて、『公的扶助と社会福祉サービス』(ミネルヴァ書房,1997)の第一章において「…個々人の地域生活において主体的、自律的に自己実現を追求するために、その条件と機会を社会的に確保・整備することにより保障することを意味する」(p.36)など規定されている。本来的には第三者に強制されるものではないが、生活保護を受けていながらも連続的に、自立が助長されていくためにはケースワークが重要であると言える。
精神保健福祉における自立と生活保護との関係について
精神障害者に関しては、他の障害(身体障害、知的障害など)に比べて、社会資源が不足しているという問題点もあるが、いわゆる精神保健福祉法での施策の中心は保健所(ドクター(医療)をトップとする)であり、他の障害の実施機関が福祉事務所であるのに対し、精神障害者に対する社会福祉の実施機関は存在していないため、福祉事務所の業務として精神障害者福祉にとり組む法制的根拠を欠き、公的扶助処遇の範囲内でのとり組みに限定されざるをなくなっているのが問題であると言える。
精神保健福祉法における自立は、第一条における、医療保護と社会復帰の促進を主眼においた社会経済活動への「参加」を目的にしている。また、法を概説すると、精神医療における人権の配慮の後に社会復帰や生活支援が来ている。このことは、はじめに、治療、疾病予防が図られた上で、いわゆる寛解の状態や回復期において、障害者として地域生活や福祉的な施策が図られることを意図していると考える。
社会復帰とは、上述の通り、総合的リハビリとノーマライゼーションに基づいた概念に即しており、精神障害者特に統合失調症における「関係性の障害」の緩和ないしは克服のために社会的に環境を整え、いわゆる福祉的就労を通して社会性を回復させようとすることを目的にしていると考える。その背景には、長期入院による人権侵害や人間性の回復としての社会、地域への開放を意図し、いわゆる精神障害者のサポートネットワークという、精神障害者の囲い込みがあると思われる。
確かに、精神障害者は、他の障害に比べ、医療のウェートが重い障害であると言える。知的障害や身体障害に比べ、薬物による精神状態の抑止がその人の平穏な生活を保障するし、波があり、急性期から回復期まで個人差が非常に大きく、判断が難しいという意味で、疾病である面が強い。そうした意味でも、今後も精神医療のウェートは大きいが、精神「保健福祉」として、社会復帰としての様々なサポート体制というソフトウェアの充実が一層必要になってくる。
また、医療との関係で、費用に関しては現在、医療扶助による給付は障害者年金や精神保健福祉法の29条や32条によって支払われ、減少の傾向にあるが(通院による医療扶助はよこばい)、長期入院によらなくとも、自立した生活を営もうとアパートを借りて生活をしている精神障害者にとって、生活保護はなくてはならない制度であり、医療扶助の占める割合は非常に大きい。(もともと、精神障害者にとって、医療に占める費用のウェートが非常に高いことから、他の精神保健福祉施策へ資源の分配が少ないという問題もある。)
生活保護制度のそもそもの制度的な欠陥(貯蓄の禁止、保護基準が高すぎてむしろ働く意欲を削いでしまったいること)などがあり、また、スティグマ感、惰民養成、適正政策による保護率の低さなど行政上の問題や、ケースワーカーの心情などがあるが、そもそもの生活保護の役割を考えると、こうした精神保健福祉法の社会資源を結びつけ、自立助長を図るように働きかけるのは生活保護であると考える。