社会福祉援助技術現場実習における‘介護過程分析法’援用についての一考察
−知的障害児者施設での実習過程を中心に−
若竹学園 熊谷 和史(6256)
〔キーワード〕介護過程分析法,援助過程,知的障害
1.研究目的
2007年12月に公布された「社会福祉士及び介護福祉士法」改正では,社会福祉士を相談業務として明確に位置づけ,ソーシャルワーカーとしての専門性確立と職域の拡大を打ち出している.それに伴い,教育カリキュラムの刷新が行われ,従来の社会福祉援助技術現場実習は相談援助実習へと名称変更がなされる(本研究では,現在呼称されている社会福祉援助技術現場実習を使用し,以下,現場実習とする).
ところで生活型福祉施設(特に本研究は,知的障害児者施設に焦点を絞る)で現場実習を行う場合,従来から介護福祉士や保育士の施設実習と区別が出来にくいことが指摘されている.いわく,知的障害児者施設の現場実習は日常業務,中でも雑用,身体介護,利用者との何気ない会話〜コミュニケーションに大半が費やされる.その中にあって,ソーシャルワーカーとしての役割や意義とは何かが見出しにくいと.
それでも知的障害児者施設での現場実習は,利用者との適切な関わりを持つこと=対人援助技術に意義を見出してきた.とはいえ,やはり指摘の通り,どのような場面で援助者(専門職)として関われたのかを意識化する事は難しい.なぜなら施設職員自体,日常業務(特に援助者が日常的に直接利用者へ働きかける業務〜介護・作業など)はルーティンワークとして半ば無意識に処理しているからである.しかし,今回の法改正における一連の流れの中で,実習施設側もソーシャルワークとしての適切な実習プログラムを示すことが問われている.であるならば,日常業務に内在する専門職としての諸要素(援助過程)を改めて意識化し考察することは重要である.なぜなら,例え,社会福祉士に求められる役割が高度化あるいは分化しようとも,社会福祉実践の基本は,個と丁寧に向き合い自ら(援助者)のあり方を考える事に変わりはないと考えるからである.特に知的障害児者施設では援助者が長い時間や年月をかけて利用者と関わっていることを考えれば,なおさらであろう.
そこで本研究は,知的障害児者施設の日常業務に内在する援助過程を意識化する事に適した手法として,田中治和(「福祉実習の記録方法についての一考察」『社会福祉研究室報』(4),1994)が提唱した‘介護過程分析法’を取り上げる. そして‘介護過程分析法’を実際の現場実習に援用する場合の課題やプロセスを提示することを目的とする.
2.研究の視点および方法
知的障害児者施設で行う現場実習は,日常業務に内在する援助過程の詳細を考察することを最大の課題と位置づけ,‘介護過程分析法’がその課題に対し手だてとして有効であるという視点に立っている.
研究方法としては以下の手順で行う.
- ‘介護過程分析法’が意図する諸要素について,関連すると思われる諸学説・先行研究から考察する.
- 現場実習における実習過程のあり方などを先行研究から参照し,‘介護過程分析法’を現実的に援用するための具体的なプロセスを考察する.
3.倫理的配慮
本研究は主に文献研究である.先行業績,引用等について日本社会福祉学会の定める研究倫理指針を遵守する.
4.研究結果
- ‘介護過程分析法’は,看護分野ではプロセスレコードとして定着している.特徴として個別支援計画策定のアセスメント〜ある目標を指向する事だけではなく,一見すると些細な場面しかし,自分にとっては気になる場面を取り上げ,利用者と援助者相互の関係性や援助者自身の試行錯誤を吟味することである.
- ‘介護過程分析法’を日常業務の中で利用する有用性について.利用者との日常的な関係の中には多分に繊細で動的な思考を援助者が働かせている事を意識化すること.そして,その意識化は自らの行為が社会福祉あるいは専門職として,適った事なのかなどを深めていくきっかけになる.その積み重ねが日々の業務遂行の中で援助者の自律的な思考・行動(営為)へと結びつくことなどが挙げられる.
- 知的障害児者施設での現場実習に実際‘介護過程分析法’を取り入れる場合について.先行研究から現場実習においては段階的な実習過程があることが分かり,a. 実習初日から数日間は業務内容に内在する援助過程の把握や身体化を必要とする.さらに知的障害児者施設の場合,障害への理解や偏見やイメージも段階的に変容する事が明らかになっている.b. 業務内容を把握しても個別へ働く援助過程の全体像の把握は難しい.そのため,ケーススタディにより個別性を焦点化させることが必要であるなど,‘介護過程分析法’を導入するにはある一定の準備を必要と考える.
- ‘介護過程分析法’そのものを援用する難しさについて.‘介護過程分析法’は,援助者が利用者と関係性を結ぶ試みを分・秒単位で再現するが,日常業務では多様な状況や他者との関わりが混在し,一対一での状況では考えにくい.つまり一定の時間であっても,たくさんの人々(利用者)と間断なく関係を持ち,思考し,判断をしており,焦点化が難しい.さらに何を取り上げるのかの判断基準がつきにくいことである.そのため,焦点化する利用者何人かを指定し,その人たちを中心にじっくり観察や関わりを持つことをあらかじめ伝える必要がある.
- 実際に‘介護過程分析法’を取り入れる場合のプロセスについて.上記の情報収集,焦点化の他,a.関わる際に自分(実習生)だけの行為だけではなく,職員がその利用者と関わってオヤッと思ったりハッとした行動なども介護過程分析法として取り入れる.b.この記録が実習生にとって加重の負担にならないように簡便化を図る.c.最後に短い期間とはいえ‘介護過程分析法’の結果を集積し考察する必要がある.
2008.6.30
