2023.7
生活保護と生活困窮者自立支援の方向性
座談会 生活困窮者自立支援制度のこれから
- コロナによっていとも簡単に深刻な困窮に陥ってしまう人(新しい生活困難層)がいる.生活福祉資金の特別貸し付けは1兆4千億もあった.住居確保給付金も大きな役割を果たしたが,困窮者支援制度には経済支援や居住支援の仕組みが組み込まれていなかった.
- 生活福祉資金の利用者は安定就労に就いていた人出は無く,元々不安定な就労に就いており,コロナで生活保護に移行したかと言えばそうではない.むしろ生活保護受給の実人数は減少している.社会保険も生活保護も届かない層が増大している.
- 生活保護基準がどちらかと言えば下がってきているなか,中高年層は賃金が低下していることと,年金収入が少ないために生活保護を利用する人が増加している.一方,若い世代が利用に結びつかない理由は資産要件が厳しくて利用しにくいことと利用したくないと言うことの気持ちが強い.
- コロナのせいで,生活困窮者自立支援の運用も思った以上に相談者が押し寄せたこと.そして,思った以上に困窮が深刻化した.コロナのような深刻な災害では,なんらかの給付が必要であった.しかし,その給付基準が最低生活基準というものであった.そのため非課税者とワーキングプアの人の間に給付漏れがあった.
- よって生活保護と生活困窮者自立支援法の間にのりしろがあって相互に使えるサービスがあっても良いのでは無いかと思う.
- 階層ごとに所得保障をするという考えがある.
- 特別貸付の返済が始まっている.返済免除や猶予の手続きを通して,さらに生活困窮の様態が見えつつある.死亡免除の中でも滋賀県で93件中,13人が自死,別に一件は低体温,低栄養のためといいう.
- 生活保護制度の人的配置や財源を,困窮者支援制度にあてがうことで削減させないこと.そして生活保護と生活困窮者自立支援の双方がむしろ質的・量的に相乗的に発展していく形でその重なり合いを考えることである.
- 安定層と生活保護の真ん中に新しい生活困難層がはまり込んでいる.ここに生活保護に限定されている所得保障をもうすこし制度外に広げられないか.もう一方で安定そうに限定されている傾向のある居住,公教育,安定的な就労機会をこの困難層にも広げる努力をするべきではないか.こうして使える支援を当事者の状況に応じて重ねていくときに重要なのが相談支援.困窮者支援制度の自立相談支援,あるいは重層的支援体制整備事業で提起されている包括的な相談支援が重要.
- 生活保護のワーカーが検討会議に参加しないとか主催しないという不満がある.障害や高齢では個別支援計画の作成の作成があたりまえになっているが,生活保護では必須ではない.もともと世帯単位なので個別支援という発想はない.
- ホームレス自立支援法は国の責任が明記されている.しかし困窮者支援制度は市町村などへの助言や情報提供に留まり,自治体次第となっており格差が広がっている.
- 居住に関しては,単身化も進み,賃金も集められず従来の住まい方が成立しない状況にある.そこで居住支援では,住宅手当などの現金給付,空き家活用という現物給付,そしてサービス給付である.困窮者支援制度では一時生活支援事業の地域居住支援事業などが大きく発展し,さらに住宅セーフティネットを根拠法とした居住支援法との連携も重要である.
生活困窮者支援に携わる人材に求められること(新保美香)
- 生活困窮者支援には,経済的支援と社会的孤立に着目し,その二つに対応できる支援として伴走型支援を提起し,理念とともに人材育成の具体的方法を報告書にまとめている.
- 自立相談支援事業従事者養成研修に基づく人材育成がはじまり,この研修は国研修と呼ばれるようになり,その企画運営を社協が担っている.
- 断らない相談支援を旗印にはじまっている.個人や家族への支援から支援を通じた地域づくりまでを包括的に,地域の関係者とともに創造していく.制度の狭間を作らず,分野横断的に,多機関との協働により取り組んでいくことが求められる.
- 生活困窮になることが自己責任と考えられ,当事者が自尊感情や自己肯定感を損なっている状況にあって尊厳の確保に向けた取り組みが求められる.
- 生活困窮者には表面化している困りごとの下に,背後に社会問題があり,排除を強化知る価値観や思想がある.生活困窮者の氷山モデルは,朝比奈みかのパワーポイントを参照
生活困窮者支援モデルの軌跡(田中聡一郎)
- 生活困窮者支援の具体的な検討が始まったの2008年のリーマンショック後である.
- 制度の位置づけとして,社会保険と生活保護の間,第二のセーフティネット,対象者は生活保護に至っていない生活困窮者,制度目標は生活困窮者の自立と尊厳の確保の地域づくり,支援方法は包括的継続的支援などの支援論に基づく相談支援と地域での支援.
- 出発点としては年越し派遣村,住宅手当緊急措置事業,パーソナルサポートがあった.
- 社会保障と時一体改革の推進力,第二のセーフティネットとして総合的支援が盛り込まれた.
- 局内勉強会と特別部会において,現場主義の生活困窮者支援の事業体系が考案された.
- 法制局震災による社会的孤立と生活保護受給者の利用の問題で,生活困窮者自立支援法が生活保護受給者以外の人々を対象とすることとなった.
- その後,地域づくりの視点の強調としての地域共生社会が社会福祉法で行われ,生活困窮者自立支援法では,社会的孤立に関する記述を充実させ,自立相談支援・就労準備支援,家計改善事業の一体的実施の促進を行っている.
参考文献