2022.9
福祉における生産性とは
インタビュー 生産性の考え方と福祉分野で留意すべき事 権丈善一
- 医療福祉分野で使うことは適切ではない「付加価値」で産出される生産性
- 国の規制改革推進会議で,介護施設等の人員配置基準を緩和するという議論があり,ICT化を進めて人員削減せよ.それで生産性を向上させよと責められている.
- そもそも医療・福祉分野では付加価値となるものは存在せず,診療報酬や介護報酬によって財が生み出される仕組みとなっている.
- 労働力を削減して機械を導入することで,ある一定の資本(お金)の節約にはなるが,サービス産業の場合質が問われないとすればいくらでも労働力を節約できるので注意が必要.
- ケアの質を上げるように言われながらも,人員削減が命じられ,さらに労働者一人あたりの労働時間の削減や職員のワークライフバランスも注意しないといけない.結局機械化したり,業務を外注化したり効率化をしても効果が出ていない.
- 付加価値よりも質を頭に置いた議論をするべきであり,第三者評価などの評価基準を踏まえて尺度を作る必要がある.
- アダムスミスの時代のようなサービスは非生産的という見方,さらに今の時代だと税,社会保障という財源で成り立っている産業は生産していないという見方が働いているのを感じる.しかし,サービス産業の人たちは,一国経済の中で消費者としての役割を果たしている.介護という国の主産業で働きながら国民のQOLを高めてくれる多くの人たちの所得が低いままだと,マクロ経済における分配と政庁の好循環がうまく機能しなくなる.子育て支援連帯基金とセットで介護保険の財源を強化して,介護をはじめとした福祉分野で働く人たちの労働条件の改善を進めるのも重要な政策目標かと思う.
レポート1 介護ロボット・ICTで時間を生む 樽本洋平
- 介護ロボットやICTを導入することで,労働時間の短縮や職員のワークライフバランスの充実が図られることを念頭に行うこと.
- また扱う機器の変化に応じてマニュアルを作り替えることや使いこなすことで,生まれたゆとりをもって介護の質を向上させること.
- 介護における生産性向上は最終的には介護の質の向上に他ならない.ICTはそのための手段に過ぎない
レポート2 スタッフが働きがいを持てる職場を作る 廣岡隆之
- 離職率の低下や定着率の向上を図り,腰痛ゼロ(身体的負担の軽減),メンタル不調ゼロ,長時間労働ゼロに取り組んでいることを説明.
その他,ICTや介護記録の電子化,業務の洗い出し,多職種間での連携でのオンライン化などで持続可能な福祉サービスの供給を目指している取り組みについて紹介されている.
福祉の生産性とは,業務の効率化によって生み出される時間を使って介護の質の向上を指す.具体的には身体のケアだけではなく,心のケアなどにも考慮すること.あるいは働きやすい職場を作ることで離職者を減らし,労働者一人あたりの仕事量の増加を防ぐこと.そのことで円滑な環境を保持し,もって介護の質を維持することにある.