2022.4
再考 リスクマネジメント
座談会 求められるリスクマネジメントとそのための組織体制
- 弁護士の立場から,ドーナッツを提供して窒息したことが刑事事件として立件されたこと.施設から泣き声が聞こえると言うことで虐待通報されることがあること.契約に基づく利用制度のもとでは双方の権利/義務関係も明確になり,利用者などの権利意識の高揚から大きなトラブルの発展につながる事例が散見されている.
- カスハラも増加している.特にマウントを取るだけを目的として職員に圧力をかけるような苦情が増えてきた.またパワハラやセクハラも増えてきている.それも利用者からの…そして,個人情報の流出も問題になっている.悪意は無いが,SNSの発展と職員のモラルの問題に起因している.
- またパワハラ防止規程が順次施行され,男女雇用機会均等法,育児休業、介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律等を経てセクハラなどの防止措置が義務づけられ,事業所も対応していくことが求められている.
- カスハラは契約解除も契約書に盛り込む,職員を守ると話す.個人情報は教育するという形で示している.保育では保護者からのカスハラが多い.
- 弁護士の立場から,カスハラをする利用者に毅然とした態度を取ると決めるのは良いが,カスハラであることを誰が伝えるのか.そこをハッキリしておかないと結局職員に負担がかかる.また解除事由にカスハラを盛り込むのも良いが,正当の理由が無い,サービス提供の拒否ですよねと突っ込みどころを作ってしまう危険性もある.また保育でも保護者の要望は可能な限り断らないというのは良いが,ソレによって職員の負担感が増してしまうのではないか.ちゃんと管理者の方で把握しておくことが大切だと思う.
- 人材不足によって起こりやすいリスクについて
- サービスの質の低下で介護事故が起きたり,職員が疲弊して離職につながりやすい.
- 重度化によって利用者が動いて事故になるよりも職員がケガをさせてしまう.
- 個室やユニット化によって密室になり不適切な対応や職員ひとりへの介護負担が大きくなる.
- 大規模災害が発生しやすくなり避難訓練等が必要になった.
- ICTの発展による操作の未習熟や見守りがモニターごしになって新たなリスクになる.
- コロナ感染による職員の感染で勤務できない職員が増えることなど
- 2021年の介護報酬改定では施設系サービスにおいて「安全対策担当者」の配置が義務化され,置かないと報酬減算となっている.これは介護事故を防ぐことを目的としたものである.
- リスクマネジメントを考えると身体拘束をすれば介護事故は防げるが,尊厳などを考えながら事故予防システムを創る発想が必要である.
- リスクマネジメントとは,こうした介護事故への対応と職員の労働安全衛生管理があるということ.
- 保育ではどちらかと言えば子どもの行動による事故が多く,ヒューマンエラーは少ない.
- リスクマネジメントも業務の一つであり,法人全体で取り組み事.介護事故は決して個人の責任ではなく,法人として取り組むこと.そこで法人理念や品質目標,労働安全衛生目標などを明示する事が大事.
- 組織を挙げてリスクマネジメントのシステムをつくり,利用者の人格を尊重するとともに職員を守ってあげることだと思う.
職場におけるハラスメント対策(影山正伸)
- ハラスメントとは苦しめること,悩ませること,迷惑とある.これらのハラスメントを放置すると,加害者,事業主,被害者ともに何ら得することなく.損することばかりである.
- セクハラは男女雇用機会均等法,マタハラは育児・介護休業法,パワハラは労働施策総合推進法によって2020年で規定され,大企業は同年6月,中小企業は2022年4月より施行される.
- パワハラが大きく問題になったのは,2010年6月の労働災害認定された最高裁の判例である.この事件を機にパワハラの相談が急増したとされる.
- パワハラは,1.身体的な攻撃,2.精神的な攻撃,3.人間関係からの切り離し,4.過大な要求,5.過小な要求,6.個の侵害(SNSで友達申請して部下に干渉することも含まれる)
- 事業者によるパワハラ対策などは厚労省を参照のこと.
- 申し訳ないが型どおりの内容で,論文と言えるか…せいぜい,施策紹介で良いのではと思った.
「あってはならないことが起きた」時のクライシス・コミュニケーション(宇於崎裕美)
- リスクは目的に対する不確かさの影響,この場合は悪いことが起きる可能性を指す.クライシスは運命の分かれ目と言われる.リスクマネジメントの現場では事故や事件が起きたときは,リスクが顕在化してクライシスになったと表現される.そうしたクライシスの被害を最小限にすることをクライシス・コミュニケーションという.
- 福祉現場のリスクとは,福祉サービスが適切に提供されない可能性→利用者は自立できず,持てる力を発揮できない可能性→必要な支援を受けられない可能性→その結果,利用者も職員も不満がたまり,あげくに利用者の家族から責められ,ネットで炎上するかも知れないとシミュレーションできる.
- 失敗学とかあるらしく,ソレによるとあり得ることは起きる,あり得ないことも起きる,思いもつかないことも起こる,つまりどんなことも起きるのである.だから,去ってはならないことが起きた,想定外だ,だから仕方が無かったという言い訳は,それ自体おかしいことなのである.
- 善意が前提だとリスクマネジメントは甘くなる.だから最悪の事態を想定することからはじめるべきである.
- 事件や事故報道に接したときこそクライシス・コミュニケーションをはじめる絶好の機会である.
- 余所の社会福祉施設や事業所の事故について報道があれば,それを職員に周知する.
- その時の事故に対する当事者について採点する.
- 自分たちの施設でもし同様なことが起きたらどうするか検討する.
- そうした事案に対して家族などにどう説明するか書面にする.
- その書面をみんなで検討する.
- 話題にするまでは誰でもするが,書類を作るとかその書類を検討することをしないとクライシス・コミュニケーションの重要さは理解できない.
- 最も悪手が隠蔽である.情報公開が遅れたりすると疑われる.それから炎上する.炎上する場合もあるが,適切に対応して静かに収束するケースもある.何が成功して,失敗したのかを見極め,日頃から検討していくことが重要である.
参考文献
宇於崎さんの論文,リスクを「伝える」だけではない,「伝わる」「変わる」コミュニケーションへ | CiNii Research
介護老人福祉施設における転倒に関するリスクマネジメント理論モデルの検証 | CiNii Research
介護福祉施設におけるリスクマネジメント : 働きやすい職場環境と人材育成確保の必要性 | CiNii Research