2021.8
刑事司法と福祉の連携
罪を犯した人のその後ー高齢または障害のある受刑者などの強制処遇などの取り組み
- 高齢または障害のある受刑者および少年院在院者については,再犯防止推進計画(2017年閣議決定)における七つの重点課題の一つとして,保健医療・福祉サービスの利用の促進の項目が設けられ,その処遇の充実が掲げられている.
- 新受刑者の中で高齢者の割合は2252人,12.9%であり全体の受刑者数が減少する中で増加傾向にある.精神障害のある受刑者は14.8%,少年院在院者の中での精神疾患者は23.9%と高い割合にある.高齢者の再犯率も高い.
- 受刑者の行動は,基本集団行動であるが,高齢者の身体状態に応じて作業時間を少なくするとかバリアフリーに配慮している.また精神疾患者の集団行動が難しい場合は個別支援を行っている.少年院における障害者の場合は知的能力に応じて矯正教育課程が1から5までのレベルが準備されている.
- 矯正施設における福祉支援では,高齢者や障害者が出所後自力での生活が困難であれば福祉サービスとの連携を図る「特別調整」というものがある.特別調整の対象に該当した場合,保護観察所に通知する.その観察所にて特別調整の対象者として判断されると地域生活定着支援センターに協力を求め,矯正施設も含め,各機関が連携しながら対象者の受け入れ先の確保や福祉サービスなどの受給を向けた支援の調整を進めることになる.2019年で特別調整が集結した人は775人,受け入れ先を確保できたのが639人と高い確率である.
- 矯正施設に福祉スタッフの配置をしている.2014年には刑事施設に,2015年には少年院に精神保健福祉及び社会福祉士が非常勤で配置されている.
- 刑事施設における指導支援には,1:社会復帰支援指導,2:認知症対策がある.
- 収容中から出所後まで切れ目のない継続的な支援が不可欠である.
生きづらさに寄り添うソーシャルワークー犯罪行為の背景にあるもの(掛川直之)
- 日本はかつて無い犯罪減少社会を迎えているが,高齢者や障害者というヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)を有する人たちによる犯罪が極めて異彩を放っている.
- 生活に困窮している高齢者や障害者は刑務所の中は三食付きの安全の場所としての側面がある.
- そもそも累犯性の高い高齢者や障害者の存在は昔からあったが不可視化されていた.それが山本譲司による獄中記『獄窓記』2003年:ポプラ社によってそうした人々がいることが明らかにされた.
- 2007年に刑務所をはじめとする矯正施設に社会福祉士の配置,2009年に地域定着支援センターの設置そしてそれらをベースに特別調整の仕組みが整えられていった.
- しかし,特別調整の対象は高齢または障害により自立が困難で,しかも適当な機銃予定地のない者と定義されており,その対象が以外の人々の受け皿も必要である.
- 地域定着支援センターに代表される刑事司法と福祉の連携は「出所者支援」という新たな支援領域を作り出すことになった.再犯の防止に向けて,出所者の生活や社会性への伴走型支援が求められる.
- 中には自分の気持ちを言語化できない人,あるいは出所後の生活を想像できない人がたくさんいる.そうした人たちの希望になり得る支援が必要である.失敗を許容することや再犯さえも犯罪行為を手放していく一つのプロセスとしてとらえる必要がある.ソーシャルワーカーはその特性と環境との相互作用に留意して介入していくことが求められる.つまりソーシャルワーカーが率先して生きやすい社会を創りだすことが大事である.そのためには出所者だけが変わることを求めるのではなく,周りの社会もまた彼らに対して寛容さなど周囲にいる人たちこそ変わる必要がある.
その他,
- 更生保護施設(刑務所出所後に必要に応じて入所する施設)における出所者支援,
- 地域定着支援センターの実践,
- 「吾作は身を投げた」という明治の出来事から出獄保護会社を設立,のちの更生保護施設へとつながること.
- NPOによる社会復帰に向けた出所者の孤立防止の支援
- 救護施設におけ刑余者の居住確保と伴走型支援について:特別調整に該当しないケースでの問い合わせにも対応している.