2021.5
地方自治と福祉
特集の視点として,
- 第一次地方分権改革では,機関委任事務を廃止し,自治体が自主的に行う自治事務と自治体が国から引き受ける法定受託事務に区分された.その後,2006年からの第二次分権改革では,従来の国主導による委員会勧告方式から地方自治体より全国的な制度改正の提案を広く募る提案募集方式が導入され,2021年に第10次の地方分権一括法が成立している.
- 地方分権が進むと言うことは,地方自治が進展することである.行政のあり方,議会改革,住民自治のあり方と地域福祉が密接に絡み合う.
- 重層的支援体制整備事業,包括的支援体制の構築,地域福祉計画の策定や進行管理など,多様な構成員によるガバナンス抜きでは構築できない.まさに地方分権と地域福祉による自治が問われている.
地方分権と福祉行政(田中優)
- 1995年の阪神淡路大震災によって公助よりも共助や互助,自助が主流になった.ガバメント(国家)からガバナンス(地方統治)によるネットワーク型の課題解決が求められた.
- 地方分権一括法は,先に書いたように生活保護のような国の責任が明記されたモノ以外の福祉行政の多くは自治事務に移行された.例えば,社会福祉法人の認可,指導監査の所轄が中核市だけではなく,一般市まで降りてくるようになった.よって法人は寄り身近な行政との関係強化を意識する必要が出てきた.
- 市町村地域福祉計画もまた,これまで中央主導型政策の末端にいた市社協も自立していく必要が求められてきた.
- そもそも地方自治の改革は,国の財源不足のため地方での裁量を増やす代わりに財源も地方が負担といった.国の権限を自治体に移すことは福祉行政に対する国の責任を希薄化させ,福祉国家の解体を加速させていった.そのため国が特定していた財源(国庫扶助)を一般財源化したせいで補助金のシバリが無くなり,サービスが提供されなくなったなど.または従うべき基準から参酌すべき基準に変更されることで専門性が否定されるなど.
- 福祉行政に関わるヒトは,地域の中にどういうニーズがあり,サービス供給主体があるのかを把握すること.市町村福祉計画の策定を通じて住民や関係者とともに考え理解を深めながら事業者などと連携していくことを構想することである.
- 論文:畑本裕介 社会福祉行政のこれから
- 論文:村田文世 地方分権下の地域社会における社会福祉法人制度改革の意義
地方分権と包括的支援体制(宮城 孝)
- 2016年厚労省「地域共生社会実現本部」の設立以来,様々な議論がされ,2018年に改正社会福祉法が施行された.2019年には「地域共生社会推進検討会」が公表され,再度,社会福祉法が改正され,重層的支援体制整備事業が位置づけられた.
- 戦後長らく続いてきた児童・障害・高齢者・生活保護などの属性領域別の相談支援システムからいかに横軸を通し社会福祉以外の他の領域とも有機的に連携・協働した包括的支援体制を構築していくかが問われている.
- 先進的なところでは,地域福祉計画や社協が立てる地域福祉活動計画において包括的支援体制重点施策として位置づけている.首長が福祉に理解があり,リーダーシップや財源確保に積極的であること.十分な検討と協議ができることなどであった.
- 包括的支援体制にとって必要なのは,
- 安心して暮らせるための生活環境の持続可能性を高める.
- 住民の各ライフステージに応じた複合的なニーズの把握.
- 事後対応型のシステムから早期発見・対応型システムへの転換.
- 福祉専門職の配置と多職種・多機能の連携と協働である.
座談会:地方分権時代に福祉関係者に求められる取り組み
- 二つのポイント,国,都道府県,市町村が上下関係・主従関係から対等・協力の関係に移行すること.中央省庁主導の縦割りの画一的行政システムから住民主導の個性的な総合的な行政システムへの転換である.
- 機関委任事務制度が廃止され,権限委譲が進む中,必置規制の見直しもあり,市町村の独自性と同時にサービスの質の低下や地域間格差も広がっている.そのような中,2018年に自治体戦略2040構想が打ち出されている.
- 地方では,地縁型の市民団体,自治会や町内会は崩壊しそうになっている.少子化,高齢化などで.
- その一方で,地方創生などで関わるところであれば,自治体とのやりとりも頻繁になり身近な存在になってきたと思うと言う感想もある.地域共生社会においては住民の頭と心の柔軟さが求められる.防災,お祭り,福祉という縦割りにとらえるのではなく,どこに焦点をあて,効率よく運営するかが問われている.それは行政にも言えることであり,新しいモノを作るよりも今ある人材で共同化していくことが求められる.