2019.8
令和時代の福祉を展望する
座談会 地域共生社会を目指す潮流と社会福祉法人
- 平成が約30年続いたことから令和もまた30年続くとして,超高齢社会,少子化,人口減少,労働者不足など社会保障の重大な局面を迎える2025年,2040年,そして日本の人口が1億を切るとされる2050年が含まれる.世代構成比率も高齢者1に対して現役が1となる.
- 2018年に社会福祉法が改正され,地域共生社会が謳われているが,すでに地縁,血縁,社縁という共同体の機能の低下は顕著である.また公助,共助の前提となる互助や自助は,共同体の提供する保障の機能を前提とするものであったが,未婚率の上昇や単身世帯の増加により難しくなっている.背景には,非正規雇用の増加による賃金の低下,経済的困窮者の増加などがある.
- 社会福祉法の改正では,世帯も支援の対象とする(第4条第2項),地域子育て支援拠点,地域包括支援センター,障害者相談支援事業所が連携することを努力義務(第106条の2)とし,生活困窮者自立支援事業を行政と市町村が連携するように示している(第106条の3第3項)
- 地域もまた,人口減少のために労働者不足の他,地域を支える担い手も減少している.ただし個人同士でつながる第4の縁とか農業と福祉をつなげる取り組みなども見られる.こうした分野を越えた協働により個別対応では生まれない相乗効果をもたらしていかないと,日本の社会の持続は難しい.これまでは縦割りで整理してきたものを.暮らしや地域を俯瞰的,包括的に捉えて対応していくことが求められる.それは,従来の互助,共助,自助,公助では無く,市場の機能(福祉サービス),コミュニティ,行政がバランスを取りながら連携していくという形を目指していく.
- 平成までは,介護保険制度など福祉の普遍化が推し進められてきたと言える.しかし制度のはざまなどの問題が噴出してきて対応できないことも見えてきたと言える.地域共生社会では,例えばゴミ出しをしないと排除されてしまうような共同体では無く,住民は自由に参画できるし,離脱する自由も保障されて,自分の思いや生活条件の中で地域社会に関わっていける社会の実現が令和時代の課題.社会福祉法人などはこの地域共生社会において何かしらのプラットホームをつくって住民を支える重要な役割を担うべきである.社会福祉法人は枠内にとどまるのでは無く,枠の外にいる人をいかに包摂するかを考えて実践してみることが大切である.
- 生活困窮者自立支援法では,こうした地域から孤立している人たち,排除されてしまっている人たちをコミュニティへつなぎ直すことであり,それには行政の責任のもので担わないといけない.
- 社協は他分野の専門職や住民などの多様な主体がつながることの可能性を徹頭徹尾追求すること.住宅弱者の民間賃貸住宅への入居支援や空き家の福祉転用,遺贈を含む終活プラットホーム構築と言った先駆的事業開拓などである.また人脈形成を重視して,人脈を活かして課題解決を図るプラットホーム型活動戦略を作っている.
- 縦割り行政を打破するために頑張れば頑張るほど,その壁にぶち当たる.そうした取り組みをしているところを応援する仕組みが必要である.
- 一部の人から医療における地域医療連携推進法人をモデルに,社会福祉法人も大規模化する案が出ている.しかし,多様性やこれまでのことを考えるとあまり良いこととは思えない.
インタビュー 社会福祉の実践に新技術はどのように活かすか
- 人口減少によって治安や社会システムの低下は免れない.AIなどの技術を使うことで人間が本来携わるべき業務に集中できると考えるべきである.いまの仕事をそのまま行っていたらもちろん人の仕事はなくなるかも知れない.しかし,人にしか無い能力がより良く活かされるように変えていかないといけない.この仕事は本当に人がしないと畏敬のか?人がしなくても済むことではないか?と言うことを良く検討した上で,ICTの活用をしていくべきである.
- 人口減少社会の到来で,物理的に働き手が減っていくわけだから,ICTを導入することはもはや不可欠だという前提に立つべきである.さらに何が目的でICTを導入するのかという視点を持ってほしい.
- 現在のICTの使い方は,例えば職員の代替をするためにセンサーを導入するなど人の可能性を信じていない使い方をしている.ベテランの状況把握能力はもっと評価されてしかるべきであり,新人の教育のためにAIとかICTを使う方向にするべきである.というところで,インタビューを受けている人が開発したICTについて紹介.MIMOTEというもので,いわゆる暗黙知の可視化を意図したものであった.
- 今後人材不足がますます深刻になることが見込まれる中,職員を一人前に育てることにどのくらい待てば良いか.いまこそ人活かすICTを導入するべきであり,業務省力化とかバックオフィスの効率化による活用は時代遅れである.
地域共生社会における「住まい」の保障(井上由起子)
- 福祉は縦割りに高齢者,児童,障害などと区別されているが,住まいに限っては似通っている部分が多分にある.路上生活者の原則であるハウジングファーストが精神障害者分野でも応用されているし,高齢者施設の個室やユニット化は,障害者の入所し支援や児童養護施設にも適用されている.
- 特別な住居の「住まい」化:施設を暮らしを営む場と捉え直し,それにふさわしい居住環境を整備する取り組みを指す.
- 住居確保要配慮者の居住支援:単身高齢者や障害者など家主が貸したがらない人への支援の取り組みの強化.
- 地域居住の実現:どこに住んでいようとも地域の一員として日常を遅れることが好ましい.そうした地域との関わり方を作り上げること.
- 住宅はあくまでも箱物として捉え,住まいはその空間的な範囲が可変的であり,家,町,国などに応用可能である.
- 高齢者の多く80%は持ち家があるが,民間賃貸に暮らす高齢者は低収入で貧困率が高いことが言われている.そのため生活困窮による居住支援が必要である.それが「新たな住宅セーフティネット法」である.体制を作る協議体が,居住支援協議会である.
- 安定的な住居が確保できると,人々の関心はより高次なものへと移る.自宅以外の居場所を用意することが居住支援において必要である.私たちは住宅では無く住まいを求めて生きている.住まいとは場所への愛着を含んだ概念であり,いえとまちの両方で構成される概念である.