2019.6
家族の変化と求められる支援とは
(インタビュー)家族はどう変わったか
- 現在8050問題やダブルケア,社会的孤立などいろいろな家族の課題が指摘されている.平成の30年を振り返ると,最初は中流社会,15年ほど前から各社社会になり,いまは分断社会,階級社会と言われ,よく多様化と言われるが,実情は格差の拡大である.こうした格差社会は,非正規雇用やフリーターの拡大による経済的な問題である.もっとも収入が不安定な男性が増えてきたのがポイントである.
- 中流以下の階層では,自立できるだけの収入が得られず親と同居,未婚になっているケースが多い.その一方で,安定した収入のある男性との結婚によりできた家族に経済的な問題はあまりなく,二極化が進んでいる.
- 将来性が無いとか低収入のまま結婚,子育てとなると虐待のリスクが増加する.また男性のほうが収入が上というのも幻想で,離婚については,男性の収入の低さやリストラが原因で別れる夫婦が多い.女性の収入についても,母子家庭であっても安定した収入を得る受け皿があったが,経済構造の転換によって断たれている.
- 里親の制度が伸び悩むのは,親からすれば血のつながっていない子どもがどんなときも自分たちを看取ってくれるのかといった不安がある.血がつながっていても不確実であるが,日本人にはリスクを減らしたい国民性があるので,里親が増えないという背景になっていると思われる.その一方でLGBTへの認識が深まったのは良い傾向であり,そうしたカップルによって養育されるケースも今後増えていくと思われる.
- 高齢化について,成年後見制度や介護保険制度は,個人が独立していることを前提に作られている.そのため,親と同居している未婚の人がいる世帯では,ひとり暮らしの世帯とでは,現実は違うモノとなっている.
- いままでの福祉は,こぼれた人を元の中流社会に戻すか,生活保護につなげて最低限の生活を送ってもらうかという対策をしてきた.しかし,いまは中流社会に戻れるような労働環境にあるわけでは無い.標準世帯に戻すことができない社会になってきたので,多様な家族の形でも何とか希望を持って生活できるモデルをいくつも用意し,標準世帯の水準まで戻すことが必要になっている.
社会福祉における家族システムの理解とソーシャルワーカーなどによる支援のポイント(福島喜代子)
- 戦後の多子家族から現在は,単独世帯と夫婦のみ世帯が51%となっている.高齢者世帯も,全体のおよそ6割が単独か夫婦のみとなっている.このことは,病気や障害により人の支援を必要とする状態になっても,世帯の中で助けてくれる人がいないか,数少ない残りの構成員がその扶助などを期待される状態にある.
- その一方で,家族の介護力が元々存在していたというのは一種の神話であるとする見方があり,また,構成員が少ない中で,高度なケアが求められているこのギャップに家族が処理しきれなくなっている.
- ソーシャルワークとして家族を支援するとき,構成員の動きや影響力を勘案した家族をシステムとして捉えることは有益である.システムは恒常性を持ち,改善を促しても元に戻ろうとする性質がある.そのため,虐待関係において,外部からの助言では加害者は止めないし,被害者もアクションを起こそうとしないことがある.
- ここから論者の,構造派家族療法(ミチューニン)におけるシステムの見方の説明なため割愛する.
- 現代社会における自殺の現状とソーシャルワークの可能性
法律からみた家族の変化(平田厚)
- 昭和から平成に家族像が変化し,中にはLGBTのように多様性が尊重される明るいニュースもあるが,過労死,孤独死,DV,閉塞(へいそく)感など暗いニュースもあった.法律的には,家族法,民法は目まぐるしく変化した.選択的夫婦別氏制度は見送れ,まだ多様性は否定されている.しかし,禁治産制度から成年後見制度へと改正.児童虐待事件の要件を背景に,親権の一時停止制度の導入が行われている…民法の成年年齢を20歳から18歳にも引き下げられているなどなどである.
- 家族法の領域で次々と制度が改正されるに至っているのは,機能不全状態となっている家族関係への法の直接介入という側面がみられる.DV防止法,家庭内虐待防止法,高齢者,障害者の虐待防止法である.ただし法が家庭に介入するべきかどうかという問題と,どのような方法で介入するかという問題とは,明確に区別するべきである.本当の意味で虐待を解消するためには,単に警察の介入という方法でよしとする訳にはいかない.
- 家族法による判例もまた変化している.例えば,嫡出で無い子の相続分を嫡出子の相続分の二分の一とする民法の条文に関する違憲判定がなされている.再婚禁止期間を6カ月とすることも違憲と出された.
- こうしたことから,家族法は市民生活に不可欠な法領域であり,判例も変化している.常に柔軟で寛容な理解力が無ければ,現代の家族法上の課題に対処していくことはできない.つまり,これからの家族法に関しては,人の命を救うための権力的介入だけでは無く,寛容の精神と多様性の尊重を前提とする柔軟な非権力的支援が必要なのである.