2019.12
ひきこもりの人への理解と支援
「ひきこもり支援」の現状と課題:大杉友祐
- これまで社会福祉施策は,高齢者・児童などの属性重視であった.しかし,ひきこもりは年齢などに関係なく起こりうる事であるが,これまであまり福祉の対象になっていなかった.縦割りでは対応できない問題である.
- またひきこもりを自己責任とする見方も強く,自助や共助の範囲で捉えられている.そのため,個人的問題とされ,社会的支援につながることが無く,結果として問題がより一層潜在化していくという…
- ひきこもりの定義は,幅広い年齢層に生じる社会現象であり,一つの疾病や傷害にのみ表れる物では無く,さまざまな葛藤の徴候として,原則6カ月以上にわたって社会参加を回避している現象である.さらにひきこもりが長期化して,社会生活の再開が著しく困難になり,当事者と家族が大きな不安を抱えるようになった事例を支援の対象者としている.
- 現状引きコモあり支援の中心的存在は,ひきこもり地域支援センターや精神保健福祉センターが担っているが,予防的観点も含めた十分な支援ができるほどの設置数では無い.むしろ,引きこもる前にさまざまな相談機関があったはず…言いにくい相談になっていて,支援機関が細分化されて専門的領域に引きつけて支援が行われなかったため.
- 中高年齢層のひきこもりは61.3万人と言われる.こうしたひきこもりの人達は,本来のあるべき姿(社会一般の期待を強く内在化した物)からのズレや自分自身を否定している姿がある.訓練主体に適合させる目的とした就労訓練や支援はひきこもりにはなじまない.むしろ,ゆるやかな関わりの中で本人の内面から湧き上がる過程に寄り添える支援体制の構築が必要.
インタビュー:ひきこもり当事者や家族の状況を分析し,本人の自立まで見届け,支える
- NPOスチューデント・サポート・フェイスの取り組み.
- 不適応問題に係る総合的な支援隊の確立をミッションに取り組みを進め,関係機関や地域などと協働して多様な支援の仕組みやネットワークを築いている.
- 佐賀県や佐賀市との連携による不登校やひきこもりや非行状態にある児童・生徒の支援,地域若者サポートステーション,佐賀県子ども・若者総合相談センター,佐賀市生活自立支援センター,佐賀県ひきこもり地域支援センターなどの役割を担っている.
- 大半が,ひきこもりは一つの問題であり,そのなかに経済的困窮や精神疾患なども含めて多問題となっていることが多い.
- ひきこもりとはオタクではなく,むしろ真面目な人がその性格故にストレス要因を抱え込んでしまい,動けなくなった人達が比較的多い.また問題が複合化しているためむしろ理解しづらくなっている.
- 子どもの場合は,退行とか挫折体験によるトラウマなど逆に待てば待つほど状況が悪化する物がある.また支援が長期化することに寄る過度な依存とか居場所が固着するとかの問題もある.
- かなり専門的できめ細かい支援を行っていることが文面から伺えた.特にアセスメントをしっかりと行い,事前準備をすることの大切さを訴えていた.最後のセリフ,少なくても生活困窮者自立支援制度を担う専門職はひきこもりの対応ができます.と言える状態を作らないといけないとする意見は大賛成である.
対談:ひきこもりの人への支援に求められること
- 40歳〜64歳のひきこもりは61.3万人,そのひきこもり状態にある子どもが50代,親が80代のいわゆる8050問題が社会問題となっている.インタビューを受ける人は,永年ひきこもりの家族会にいる記者.当時,ひきこもり状態の人の家族が個々に支援を求めても行政から対応してもらえなかったことから,家族会を組織したとのこと.
- ひきこもりは長らく制度のはざまにあって,2019年にようやく新しい社会問題として当時の厚労大臣が見解を示した.
- ひきこもりと言っても部屋にずっといるだけでは無く,買いものや図書館に行ったり,散歩をする人もいる.しかし働いていない子どもを恥ずかしく思う親が隠してしまい,潜在化する傾向にある.
- 学校は行かないと行けない場所という強迫観念から,乗り越えたと思っていたけれど,何かのきっかけで学生時代の恐怖体験が蘇って動けなくなったりすることがある.働いてからひきこもりも職場環境に余裕が無かったりすると,職場で孤立無援の状態になり,働くことの意義とか居場所が見いだせなくなってリタイヤするなど.
- ひきこもりに対しては,自立と就労だけではうまくいかない.また時間をゆっくりとかけていくことが大事.ひきこもりの中高年が60万人もいるのであれば,その人たちが就労すれば,今の労働力不足は解決するのでは無いかとする楽観的な考えは笑止である.
ひきこもり-いかに向き合い,いかに支援するか:斉藤環
- ひきこもりは病気では無く,状態である.しかしながら時には治療や支援が効果的である.状態とは,不登校やホームレスなど分かりやすい例である.もし病気と見なされれば医療関係者にほぼ限定される.状態だからこそさまざまな関係者が関われる.
- ひきこもりを障害に結びつけるのでは無く,たまたま困難な状況にまともな人として見なす姿勢が大事.ストレングスモデルに基づく視点が有効.支援のゴールは就労では無く,漫然と社会参加の方向を目指すことである.
- このまま働かないと大変なことになるという不安では無く,なんとかなるという安心感を得られて初めて就労への関心と意欲を取り戻す.
- その安心は対話によって得られる.対話とは議論や説得,叱咤激励など結論ありきで当事者を一方的に変えようとするモノローグでは無い.対話とはともに考え,改善や変化を期待しない姿勢の中にある.緩やかなお節介を提供する.
- ひきこもり対策として,藤里方式が有名であるが,あれは菊池まゆみ氏のリーダー性と緩やかなお節介の配慮と距離感がなせる技である.
藤里方式は本が出ていたのね.賛否両論だけど,ま,田舎だからほぼ全数調査(アウトリーチ)ができるってのも強みだと思う.
「藤里方式」が止まらない 菊池 まゆみ(著) - 萌書房
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784860650940
福祉施策の焦点
「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」が中間のまとめとして提出.これまで婦人保護事業は,売春などの生問題に対処するために接地.しかし,昨今はDV被害やストーカーからの保護,あるいは性差による社会的格差など問題は多様化している.婦人保護が売春防止法に基づいているが,この法律の見直しがされていないため現状に対応できていないとする視点となっている.
中間のまとめ(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000556504.pdf
成年後見における意思決定支援
飯村, 史恵(2019) 「成年後見制度から意思決定支援へ : 自律か保護かの対立を超えて」『立教大学コミュニティ福祉研究所紀要』7,1-18