2016.1
地域力と福祉
対談 一人一人が輝いて暮らせる地域社会を目指す
- 今歴史の分岐点に来ている.経済格差を貨幣操作で乗り切ろうとしているが,何ともならない.現代の問題は,人とのつながりや新しい経済構造など,実体面で作らなくてはいけない.
- 経済格差を埋めるはずの所得再分配の機能があるはずだが,経済が停滞したときに再分配があるから人々は努力しなくなったと考え,セーフティーネットの網を粗くした.しかし,みんな怖くなって萎縮した.また産業が発達しなくなると賃金コストが高いからだと労働市場の緩和が始まる.そのせいで再分配を不可能にしている.
- 企業は膨大な貯蓄を持っているものの,新しい産業や仕事づくりはしていない.これまで福祉国家がやってきたような垂直的(貧しい人にお金を回す)は再分配はできなくなっていると見て良い.日本では,働いていても貧困から抜け出せない現状がある.いわゆるワーキングプアは,産業構造が大きく変わっているのに,労働市場に参加できる条件を保障していないから格差と貧困が広がっている.
- 本来は,サービスを増やしてくれる増税は応じるけれど,財政再建のための増税はイヤだとなるはずだが,日本はメディアの影響もあり逆に考えている.税の見返りをどのくらい実感するかが大事である.高齢者にばかり偏っている現状では現役の負担感は強い.例えば増税して教育にかかる費用負担を下げるとかの政策が必要.
- 地域力は,社会を構成する個人の能力と結びつきの力である.しかし,日本ではその結びつきの力が低下している.家族であってもストレスの源泉でしか無いと思っている人も増えている.地域の回復は元々ある力を取り戻すこと.祭りなどで年代や職業などの垣根を越えてみんなで共同作業を行うことなどが肝心である.家族の場合も虐待がおきた場合は一時保護だけでは無理で,親子でリハビリセンターに入れるとかでまるごと対応することが必要.
- 地域に個人個人が関わる主体性が必要であり,ヨーロッパでは既存の組織が新しい組織を立ち上げる基軸になったり学習会をして増殖させていくなどの活動がある.日本はどちらかと言えば閉じた組織となっていて広がりや増殖と言うことに対してあまり積極的ではない.またひとりの人間が複数の組織に渡って活動することで視野を広げ,社会を更生していくことが理想である.
- 貧困は社会が生み出すものであるとする考えに立って,学びや共同事業への参加を通じていかに仲間意識を持つかが問われている.
- 海外を含めてうまくいっている地域では,種を蒔く段階,畑を耕す段階では行政は介入せず,芽が出て伸ばすべきだったら介入するのが鉄則である.しかし,日本の場合,こうしたことを行ったら補助金を出しますよ.という形式で,補助金をもらうために地域ですでに行っていることを政策にどう会わせるかという話し合いが行われる…本末転倒である.個人で解決できないことは家庭で,家庭でできないことはコミュニティで,と中から外に向かっていくが,日本だとそれが逆.上から下に降りてくる.それでは自発的な組織はできないし,リーダーも外から来ると思ってしまう.リーダーを育てるのもコミュニティであるべき.ボトムアップの思考が大切である.
インタビュー 地域力を高める
- 和光市保健福祉部長とのインタビュー.和光市は介護保険分野では予防に重点を置いた独自のサービス展開をしている.
- 地域福祉を考えるときは,自助,公助,互助,共助の中でも互助に注目して地域住民同士の助け合いをどうするかを検討する.和光市は地域福祉計画と社協が作成する地域福祉活動計画を,さらに地域住民の代表も入れてすりあわせをしている.
- 介護保険を卒業した人が,サポーターになり介護予防の担い手になってもらっている.それが生きがいになっている.また,小規模多機能型居宅介護には必ずパブリックスペースを作って地域交流を図っている.このスペースを活用して介護予防とか住民が話し合ったりすることで輪が広がる.そうしたシステム化された互助を作り上げている.
- 介護保険制度の地域法ケアシステムはある一定の成果が出ている.そこから先をどうするかについては,障害者,生活困窮者なども一元化して,ニーズ調査などを通じてマネジメントできれば良いと考えている.具体的にはそうしたさまざまな対象者を地域包括支援センターで統合していきたいと考えている.
- 窓口でアセスメント力をつければ,あえてワンストップの窓口を作らなくてもどこでも受け付けることができ,さらに課題抽出などから柔軟にチームを作ることができる.