2015.6
社会福祉基礎構造改革から15年(社会福祉の光と影)
鼎談(ていだん)1 社会福祉基礎構造改革から15年
- 社会福祉基礎構造改革に着手した炭谷氏との対談.
- 社会福祉基礎構造改革は,いわば利用者主体とか地域移行を念頭にした自立支援である.また措置から契約へと変更されてもいる.
- 憲法25条の最低生活の保障は福祉では浸透しているが,その他の自由権についてはあまり考慮されてこなかったのではないか.利用者の自由権をどのように保障するかという視点がそれまで欠けていた.
- しかし,行きすぎた自己責任,契約関係のシビアさなどが散見もされて,むしろ人権がないがしろになっているケースもある.そのため地域福祉権利擁護事業(日常生活自立支援事業)が重要な役割を持っている.
- 人権意識が基礎構造改革によって啓発されるようになり,認知症や障害者に対する身体拘束への批判や対応スキルの向上がみられた.
- 本来であれば,地域福祉がしっかりと基盤としてなければいけないが,日本においてはそのようになっていない.社協がガンバルだけでも十分ではない.むしろ社会福祉法人も積極的に参入するべきだと思う.本来,社会福祉法人は民間福祉事業者としての創意工夫が求められるべきであり,基礎構造改革ではそのような取り組みが求められていたはずである.
- 社会福祉基礎構造改革が一段落したら生活保護制度改革に着手する予定であったが,延び延びになっていて,2015年に生活困窮者自立支援法などが成立した.背景には社会的排除論やインクルージョンの思想が入り込んでいる.
- 今後生活困窮者はさまざまな形で増加していく.それでも福祉は人権を向上させるものであってほしい.
社会福祉基礎構造改革は障害者の何を変えたか(大塚晃)
- 障害者福祉分野は社会福祉基礎構造改革後,支援費制度→障害者自立支援法→障害者総合支援法と変化し,その間に障害者差別解消法,障害者雇用促進法や権利擁護にかかる法律がいっぱいできた.
- 支援費制度は在宅サービスを中心に財源不足になったが,この制度のおかげで障害者や家族が主体的に福祉サービスを利用して良いという新たな気づきをもたらした.措置制度においては潜在化していたニーズを掘り起こした.その後の制度では予算は跳ね上がっていくことになる.
- サービス管理責任者の設置や第三者評価の取り組みは透明性とか質を担保することになった.今後はケアマネジメントの浸透とともに全ての障害者のサービスは計画に基づいて行われるようになっていく.
- ただし,地域生活への移行についてはまだまだうまくいっていないことが明らかであり,包括的な地域の支援システムの構築が必要である.また虐待や人権問題なども横たわっており,基礎構造改革の理念,ノーマライゼーションと自立の観点から推進していくことである.
社会福祉基礎構造改革から子ども・子育て支援制度へ(柏女霊峰)
- 児童関係では2015年度から子ども家庭福祉・保育制度の一環として,子ども・子育て支援制度が創設された.これは,待機児童対策,地域の子どもを親の事情で分断しない,幼児期の教育の振興,三歳以上の子どもに学教教育を保障,全世代型社会保障の実現である.
- この支援制度に至るまでの流れが大まかに論じられている.介護保険制度や社会福祉基礎構造改革が児童福祉にどう影響したのか.「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方」では子どもの貧困がクローズアップされたこと.次世代育成支援施策のあり方に関する研究報告書「社会連帯による次世代育成支援に向けて」は保育サービス整備が進められた.
社会福祉基礎構造改革と社会福祉協議会(和田敏明)
- 基礎構造改革が地域福祉の推進であるから,社協の役割もまた重要視されることになった.
- 市町村は地域福祉計画を,都道府県は地域福祉支援計画を策定することが規定されたが,社協は地域福祉活動計画を作るという.これらが有機的かつ連動して行くことが重要である.そのためには活動計画をしっかりと作り実施していくことが社協には求められる.
- 介護保険制度が始まると,社協で行っていたホームヘルパー事業とか赤字に陥ることが多くなっている.民間企業との競合などで苦境に立つ社協も少なからずある.
- 地域権利擁護事業,苦情解決事業,福祉サービス第三者評価などは社協の十八番の仕事であり,公益性とかそういう意味では社協にぴったりの仕事である.
鼎談(ていだん)2 社会福祉基礎構造改革から15年を振り返る
- 重度身体障害者のために法律まで作ることに関わった人が,いろいろと苦労したこととか今の社会福祉法人はだらしがないとか…まぁ,そんな話をどや顔でやっている感じ.
- 措置制度の下で,社会福祉法人が施設の建て替えなどをする場合は使途がかなり制限されていたが,契約社会になってからは若干融通が利くようになっているので,内部留保だけではなく適切に社会や施設設備に使うことができるようになっている.
- いろいろと書いてあるけれど,社会福祉は,一番困っている人を見つけて,その人たちを支援していくことが社会福祉の真の姿であって,このことを地道に実践していけば,特に宣伝しなくても,社会の人々は社会福祉法人はすごく良いことをしていると評価してくれる.かたちだけの地域貢献をしても世間が認めてくれるほど社会は甘くはない.
- 若い世代には,社会福祉基礎構造改革が知らない人が増えてきている.このドラスティックな改革について改めて伺ったことで,社会福祉法人が今後何をしていけばいいのか考えるきっかけになった.