2014.8
社会福祉援助を問い直す(ソーシャルワーク,ケアワークの本質とは)
講演録:グリーンソーシャルワーク(リーナ・ドミネリ)
- 社会開発と環境正義への鋭敏な眼差しで実践パラダイムの再考となっている.このことからグリーンソーシャルワークとは,環境ソーシャルワークのことである.主に災害ソーシャルワークの取り組みのようなものである.
- 災害ソーシャルワークでは,まず人権の意識を持つことが大切.その上で環境に相互依存的に生きていること.健康な環境に生きることを目指すこと.最悪の災害は貧困であるという見方.自然災害と人的災害があり,地震によって起こる二次災害は人的災害であること.海面の上昇は,一見すると自然災害であるが要因は人的災害であること.
- 要するにソーシャルワークはグリーンで持続可能な経済のため,開発をする必要がある.それもグローバルな視点に立ってと言うことらしい.弱者にこそ一番の災害の被害が起きるのだから.
小地域における福祉ガバナンスを比較する(斉藤弥生)
2000年に入り,イギリスを中心にビネットを使ったソーシャルワークの国際比較研究が注目された.ビネットは生活者のリアリティーを描く一つの描写であり,文字,音声,映像,時には寸劇などで表現されることがある.アメリカの心理学研究では多く用いられてきたが,量的調査が中心で,近年になってインタビューなどによる質的研究にも使われるようになっている.
ここでは日本での困難事例がどのように他の国で解決のために動いているのかを調査したものとなっていた.
ソーシャルワークの展開による小地域の福祉ガバナンス確立に関する理論的・実証的研究
住民と協働する個別支援ワーカーの養成研修(野村裕美)
コミュニティソーシャルワーカー(CSW)養成についての論文.ちなみにCSWは社会福祉士の資格は義務化されていない.CSWは,個別支援,地域支援の両方の役割を果たしながら既存の制度につながらない問題を明確にし,課題化し,解決につながる仕組みを構築していくこととして定義されている.この役割機能させていくためには住民と協働していかないと行けない.その業務は多岐にわたるが,それを乗り切るには,
- 相談援助実践に必要な基本的な視点,技術など日々自己訓練によって身につけるように努力すること.
- 分からない部分については地震を支えるバックアップシステムとコンサルテーションネットワークを作り自己を補完すること.
- ポジショニングにより,援助者である自分と置かれている状況を常に認識し,相談者への責任を果たそうとすることで新人でも乗り切れる.
このことを踏まえた演習の紹介をしている.
コミュニティソーシャルワーカー調査研究事業報告書
日本におけるコミュニティソーシャルワークの現状と課題(室田信一)
CSWについて,サイレントプアというドラマがあって,その影響で福祉の仕事としてソーシャルワークがあることが周知されたこと.CSWの仕事についての紹介となっている.定義については,先に挙げた野村の論文参照のこと.きっかけは,下記の報告書が下になっている.
社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書
これまでの地域福祉は住民の組織化などのコミュニティーオーガナイゼーションが主流であった.しかし,孤立や貧困にはあまり効果が無いことがわかり,CSWの必要性が説かれることになる.CSWの裁量権は広く,法律から法律以外の組織化などより専門性の高い仕事として位置づけられている.なにより制度のはざまのニーズへの対応が属人的なものから組織的なものに変化したことである.そしてCSWは何をするのかという具体的なものが求められている.
とはいえ,何を解決するのかということばかりに着目すれば,解決能力の高さだけが評価されてしまう危険性,そして,そもそもソーシャルワークとは社会変革やエンパワメントを求めるものであり,それは社会への働きかけが求められる.しかし,この具体性にこだわるあまり個別的な相談のみを提供するという批判が起こりかねない.その人の人生によりそうこともまた必要なことである.
鼎談(ていだん) ソーシャルケアの本質とは
- ひきこもり,孤立の問題など,ソーシャルワークの対象が変化してきている.これは社会構造の変動がジワジワと問題として影を落とすようになってきている.
- ネットカフェ難民やシングルマザーなど貧困は密室性が高く,不可視化がすすんでいる.多様性や個性の尊重が裏目に出ているのでは無いか.
- また福祉サービスでも分断化がすすんでおり,サービスの切れ間や制度のはざまが顕著になっている.こうした多様性などにソーシャルワークは対応するべきなのかが問われている.
- 現在は家族が徐々にくずれてきたのをごまかしているのかも知れない.社会的排除の論理はすぐそこにあって,目を背けてきたのかも知れない.
- まず,ソーシャルワークとして手をつけないと行けないのが予防的な支援にシフトしていくことである.子育て不安は今日始まったわけではないし,介護の負担感はある日突然では無い.予測の付くものには,早期発見・早期支援をすることが必要である.また,弱者には情報が無い場合が多く,相談機関の敷居を低くする必要がある.予測する力を持つこと.対象者が深みにはまる前に引き上げる力がソーシャルワークには求められる.
- 予測には早期発見の他に,次の展開を予測することである.変化に気づく事とも言える.
- いまはサービスモデルが先行して,サービスの縦割りが進行している.しかし,問題は多様化して複雑化している.全体を見る力を養うことである.
- 個を地域で支える援助と個を支える地域を作る援助の両方が必要である.個人・家族・環境を継続的・一体的にして援助の体制を生み出すこと.
- ケアの社会化を推し進めていくことが必要である.それはケアを個人から地域へと開く行為でもある.ただケアが制度化していくと,制度依存を生み出しても来ている.地域への啓蒙は,事例を通じて,そこで生きている人を参考にしながら,そういう人がいることを地域の人に知ってもらうことである.一つの事例が地域を変えることもある.
- 地域を基盤としたソーシャルワークの八つの機能(岩間)
- 生活困窮者自立支援法と生活保護については,居住福祉の推進が求められる.生活困窮は住まいの問題と密接に結びついている.また住まうことだけでは無く,地域で円滑な生活ができるようにサポートする必要がある.
- 最近小規模化,地域化と言われているが,それがかえって相談員を孤立化させてしまいがちであり,ケアワーカーとの協働などさまざまな多職種との連携が進められないと行けない.
- 社会福祉士に関しては,新卒よりも即戦力を求めている現場としては,現場で新卒を育てられない状況にある.卒業後5年くらいは現場の中で育てることができるような仕組みがないといけないと思う.
