2013.6
矯正施設退所者への支援
鼎談(ていだん)
- 地域生活密着支援事業,支援センターが2009年に設置された後について述べている.
- 障害者や高齢者が少なからず矯正施設にいるが退所後の生活についてはあまり考慮されず,再犯を繰り返すケースが多い.受け入れ先の福祉施設も犯罪者を受け入れることについては消極的で退所後のフォローはすすんでいない.
- 2006年に刑事収容施設などの処遇に関する法律ができて,個々の社会復帰を踏まえた処遇に日の目が当たるようになった.その後,罪を犯した障害者の地域生活支援に関する研究が行われ,現在のような形ができた.
- 2011年時点で高齢者や障害者の中でも出所後に戻る場所が無い人が1000人ほどいるとのこと.
- 矯正施設の新規入所者の23%は知能指数70以下の人が入所している.また精神障害者や高齢で認知症の人も非常に増えている.
- 犯罪の分類では,窃盗が最も多く,無銭飲食や無賃乗車などを含む詐欺が多い.犯罪動機も困窮や生活苦である場合が多い.
- 矯正施設で保護観察所と連携しながら,おおむね65歳以上,あるいは障害がある,住まいがない,福祉サービスが必要,社会復帰後社会福祉が関わる人があるという要件でピックアップ(特別調整対象者)して,支援センターに依頼する.センターがいろいろと調整をしていくという流れとなっている.
- 現在は全国的に支援センターがあるが,自治体によってはあまり積極的ではないとか,各種団体が協力的ではなかったりといった温度差がある.矯正施設を出た人はちゃんと罪を償って出てきたのであるから善良な国民であるという理解があまり得られていないケースがある.
- 受け入れ先の福祉施設としては,更生保護施設が最も多いがこの施設自体,あまり数があるとは言えない.今後ますます重要になる施設だと思う.
- 特別調整をしても断るケースがあり,その理由として福祉にだけは捕まりたくないと話す.生活保護のお金は欲しいけれど,施設のサービスはいらない.むしろ怖いものだと思われている.施設に入れば一生出られないなど…
- 制度のはざまにある人たちがたくさんいて,知的障害があってもだれも気づかない,申請していない人たちがたくさんいて,放置されている.ほんとうに支援が必要な人に支援が行き届いていないという問題点がある.
矯正施設から退所した福祉的ニーズがある犯罪行為者への対応(水藤昌彦)
- 特別調整には矯正施設に配置された社会福祉士が福祉専門職の立場から関与している.
- 受け入れ先である障害者支援施設にアンケート調査を行っており,ほとんどの施設では受入に関しては機会があれば受け入れると言うことで一定程度の理解が得られている.しかし,再犯に危険性や再犯防止のノウハウがないということを心配として上げられている.
- 再犯によって地域住民と施設の関係性の悪化とか,再犯時の責任問題などで,利用調整が不調に終わる場合がある.
- 再犯の危険性ばかりに焦点を当てすぎると利用者本人の行動統制と管理を中心としたものとなり人権侵害を含めた不適切な対応になる.刑事罰を受けて出所して罪を償った人はすべからく善良な市民であるはずである.ただ,それでもリスクについては考慮する必要はある.
- 人間回復としてのリハビリの視点と,客観的なリスクのアセスメントとマネジメントの視点の料率が必要.また,その援助のあり方としては,主体性の尊重とエンパワメント,本人理解のためのアセスメント(ICFを使った対象理解)である.社会的弱者,貧困,虐待などの被害者でもあり,そうした人々へのエンパワメントを指向する.そしてなぜ犯罪を起こしたのかを個人的要因と環境要因の側面からよく情報収集していくこと.それらを統合する形で生活モデルとして支援することが求められる.
- 人間性の回復が再犯防止には不可欠である.これまでの福祉ではあまり取り上げられなかった犯罪に至るまでの心理などは,心理教育の分野を含めた他機関,多職種との連携を通じて取り組むことが必要である.