1998.6
高齢・障害者の権利擁護システムの構築
論文
構築と動向と課題
成年後見ニーズの高まり
- 身上保護を必要とする人の増加
- 国民の人権問題への関心や、権利意識の高まり。ある知的障害者の施設での権利侵害が大きな問題になった。
- 保護を必要とする人を家族だけではまかないきれない、社会的にまかなう必要が増えてきている
禁治産宣告、準禁治産制度の問題点
痴呆老人、知的障害、精神障害者など意志能力に疑いのある成年者を保護する制度として禁治産宣告、準禁治産制度がある。
禁治産宣告は心神喪失の常況にあると判断されて、家裁が宣告をし、本人の行為能力を奪うことによって保護する。後見人が選定され、財産管理や身上保護を行う。
準禁治産制度は、「心神耗弱者、浪費者として判断される人に対し、家裁が宣告し、保佐人が選任される。重要な財産行為などは保佐人が同意しないと完全には有効とはいえなくなる。
配偶者がなることが原則であり、いない場合は親族など利害関係人の請求によって選任される。
- 心神喪失や心神耗弱の判断の難しさ。精神科医の間でも判断が対立するなど統一した基準がない。
- 戸籍の記載に関わり、長く残ることから戸籍を汚したくないと言う家族の意識が強く働く
- 後見人が非常に強い権限を持ち、濫用が心配される。一度後見人に選任されると裁判所の監督も非常に弱い
- 手続きに多額の費用や時間がかかる。精神科医の鑑定料は相場で50万円といわれ、申し立てから結論がでるまで早くて6ヶ月、場合によっては1年以上かかる。
- 禁治産者という名称の持つイメージの悪さ
- 欠格事由という資格制限。禁治産宣告を受けると選挙権の剥奪、国家公務員や医師になれないなど。本人の保護といいながら大幅な権利の剥奪、制限を意味する
この制度は元来100年前に民法が制定されて当時の家制度における財産保全を主たる目的としている。意志能力に障害がある人自身にとってもっとも望まれるのは、できり限りの自立した生活の支援である。
新しい理念に基づく諸外国の成年後見人制度の動き
「ノーマライゼーション」「自己決定権の尊重」
「身上保護の重視」財産保護だけでなく、生活支援や自立支援を重視すること
「任意後見の重視」意志能力のあるときに自分の希望を表明し、能力がなくなった後にも本人の意向を尊重して支援に当たる。これまでの法定後見は事後的な救済であった。これからは、任意を優先とし、法定との両輪で活用されること
任意後県制度に先鞭を付けたイギリス
1986年制定の持続的代理権授与法本人が意思能力がある内に代理人に代理権を授与し、本人の能力喪失後は、代理人が本人の意向を尊重して支援をする。10年間で2万県活用する。日本の禁治産制度は48年間で2万件であることを考えれば、画期的な制度。
世話人支援センターを地域に配置したドイツ
1992年のドイツの成年者世話法。これは法定後見制度であるが、世話の概念を導入した点で非常に画期的。
ケアマネージメントの導入。支援組織である「世話人支援センター」という拠点を設置し、個々で相談を受け付け、必要であれば後見裁判所が世話人を選任する。親族が世話人になれない場合は、世話人協会に所属する有給とボランティアの世話人がこれにあたる。裁判所は、任意後見を優先し(補充性の原則)本人の活動全てを後見の対象としない(必要性の原則)として世話人にゆだねる
日本の成年後見制度整備への動き
法務省における1997年9月30日法務省の成年後見問題研究会の報告書より
2000年4月1日の施行を目指す。
- 任意後見の制度を導入しようとしている点
- 法定後見について、従来の制度に加えて補助という累計を加える。意思能力の減退や喪失の程度が低い人でも該当し、能力の剥奪を伴わない、欠格事由もない活用しやすい制度の創設。
- 任意後見人、法定後見人と共に、財産管理のみならず、身上保護(衣料、住居の確保、施設の入退所、介護、生活維持、教育、リハビリなど)を重視している点
- 制度活用への心理的抵抗をはぶくために戸籍に変わる新しい登録制度の創設を検討している。
- 後見人あるいは、保佐人は従来は自然人だけが認められていたが、たとえば社会福祉事業を行う法人でも後見人になれるという道を開いた点である。
今後の課題
- 成年後見を行政が直接行うことは法律上も問題がある。従って、社会福祉協議会、弁護士会、司法書士会、社会福祉士会などが実際の担い手として期待される
- 権利擁護の組織作りに加えて、支援のノウハウの蓄積も必要である。日常の継続的なサポート、財産被害の防止など
- 任意後見の積極的活用がなにより重要である。本人による選任、公正証書による手続きにより登録、その際家裁が任意後見監督人を選任し、監督人は後見人を監督する仕組みが取られる。
- 後見人のための講習や研修、養成が必要。ソーシャルワークやケアまねの手法をきちんと位置づけておく。
- 成年後見制度の整備は、制度の変革だけでなく、国民の意識改革と言う意味でも非常に重要である。