(part1)


槍頂上にて
5月4日/4時20分。最後のピッチを登り切ると
そこから上は青い空だった。
そのせまい頂上は10年前に見たことのある小さな祠と、
我々三人だけだった。
手を握り合い肩をたたき合い感動を分かち合った。
山をやっててよかった。生きててよかった。


【1993年5月1日〜5日】

 【槍ヶ岳 北鎌尾根】
 【七倉→北鎌尾根→槍ヶ岳→新穂高温泉】
 【◇矢野豊伸 ◇矢野エリ子 ◇関西こまくさ 以上 関西駒草山岳会】
 
		5月2日 信濃大町〜七倉〜高瀬ダム〜湯俣〜千天出合〜P2取付(幕営)
 5月3日 P2取付〜P2〜P3,P4,P5〜5・6のコル〜独標基部(幕営)
 5月4日 基部〜 独標〜北鎌平〜槍ヶ岳〜槍岳山荘〜飛騨沢〜槍平(幕営) 
 5月5日 槍平〜滝谷出合〜白出沢出合〜穂高平〜新穂高温泉〜高山〜大阪


◆5月2日(日) 【朝から雨、雪、みぞれ】

 
 4:01   松本着  4:27発 急行アルプス 
 5:04  信濃大町着 松本を過ぎたあたりから雨が降りだし大町では、ほん降り。
        事前予想で2日間は雨に会うだろうと覚悟していたから、これで後が天気
        になる確率が高くなると慰め合う。
        駅で既に雨具に着替えてしまい、軽い朝食の後、タクシーに乗り込む。
 6:20  七倉着、通常はバスもタクシーもここまで。 観光客もちらほら。
       幸いなことに5月1日から高瀬ダムまでタクシーが入ってくれる。
       運転手の話によると、この道は東京電力の私道でありタクシー二社、10台
       のみ許可されるとのこと、時間制限もあり 6:30過ぎからしか入れない。
       このゲート横の指導所で登山者カードの提出を義務付けられる。
       トンネルを抜けると雪になる。途中、唐沢岳幕岩の方向を教えて貰うが見えず。
       高瀬ダムまでのえんえんとした登りのつらさを、前年に行った人に聞いて
       いたからこのタクシーには助かった。    大町〜高瀬ダム(6千円弱)
 7:00  スパッツをつけダム湖を右手に見ながら歩き始める。
       この時点でもう3パーテイが先行出発した。道の両側にはふきのとうがびっしり。
       木々の間からみえるこの湖のエメラルドグリーンがとても美しい。
 8:00  林道終点、ここからもう雪が積もっている。
       途中でみぞれに替わり もう靴もザックもビショビショ。
 8:30  左手に「名無避難小屋」 薪があり畳がある。私好みの小屋。
       心の中でそっと呟く“ここで沈したい。" しかし先住人がいる。
       休憩の後 ザックをかつぎ直す、と、矢野氏「もういくの?」 / 私「ヘッ?」
       どうやら同じことを考えてたらしい。しかし後のことを考えると少しでも
       距離を延ばしておかねばなるまい。(後で聞いた所によると夫婦二人だけだと
       きっとここで沈滞、そして撤退していただろう、私がいるためしかたなしに
    行動したんだと。) 矢野氏は風邪気味、奥方は体調不良。
       高瀬川右岸の単調な雨中行軍の後 対岸に湯俣温泉 晴嵐荘が見えてくる。
       あわよくば“ビール、ビール"と 叫びながら吊り橋を渡るが、ザンネン、
       営業していない。ここの乾燥室でも1パーテイが沈滞している。
10:00  湯俣吊り橋を渡り水俣川左岸の荒れた道を行く。この道が非常に気持ちが
       悪い。ところどころ崩れており、凍った上にボソボソの雪が積もっている。
       踏み抜けば下には激流がゴウゴウ音をたてて流れている。 あそこに落ちたら
     冷たいだろう。エリコハンが言った“この道は二度と通りたくない”
       にわかに出来た、いくつもの滝が水俣川に流れ込んでいる。
12:30   千天出合手前の例のうわさの吊り橋。1本のワイヤーが切れてねじれ
       ている。ブランコ歩きを楽しむ。右岸に渡り、ほどなく千天出合い。
       ここでしばし思案。雨は一向に降り止まず水量もますます多くなる。
       軽い行動食の後、P2取り付きまで行くことにする。
       スノーブリッジはこわれていなかった。左岸へ渡りP2取り付きへ。
       フト思う。明日も雨が降り続き水量が増えこのブリッジがこわれたら・・・
       すこし上のロープが張ってある所の徒渉も困難になるかもしれない。
       ということは、戻れないということか。 
 1:30  この取付で本日の終了とする。全部で4パーテイのテントが並ぶ。
       雨の中でのテント張りのつらさ、濡れたシュラフにもぐりこむつらさ。
       じわじわと滲み込んでくる雨の冷たさ。ラジオも聞こえず、シーバも応答無し。
       雨は夜中じゅう降り続く。ああ明日は止んで欲しい。神様お願い。