鬼女のうた暦  四月  安永 蕗子

寸ほどの赤芽伸ばして鬼薊まさかに鬼となる日を待たむ

鬼あざみは初夏から秋に濃紫色の頭花をうなだれて開きますが、野あざみは春から夏に開花します。

あまた湧く心抑へて過ぐる日に春の薊は尖りつつ伸ぶ

この薊は野あざみでしょうか。濃い色の花が鋭い刺針に守られています。俗事を詠うことなく自然のなかに屹立している作者、安永蕗子の姿のように思えます。

1920年生まれ、15歌集を持ち、書道家でもあります。しかもなお80歳で「現代短歌シンポジウムin熊本」、81歳の昨年、短歌ファンタジー「水の女・青湖風説」を上演するなど、「老いていながらできる限り心は華やいでいて、だから生きている限り最後まで華やげ、輝け、という気持ち」といいます。

人間関係にはポエジーがない、過去や未来ではなく、「今」という一瞬を詠う安永蕗子の優美と格調、清冽と端正の歌風に、「水の精」のようだという人もいます。

近作の一首

またしても風に吹かれてボブ・ディラン叫ぶと聞けば野鴉が啼く

 

※ おにあざみ

 

 


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最終更新日: 2002/05/08 23:41:44