鬼女のうた暦 四月 安永 蕗子
寸ほどの赤芽伸ばして鬼薊まさかに鬼となる日を待たむ
鬼あざみは初夏から秋に濃紫色の頭花をうなだれて開きますが、野あざみは春から夏に開花します。
あまた湧く心抑へて過ぐる日に春の薊は尖りつつ伸ぶ
この薊は野あざみでしょうか。濃い色の花が鋭い刺針に守られています。俗事を詠うことなく自然のなかに屹立している作者、安永蕗子の姿のように思えます。
*
1920年生まれ、15歌集を持ち、書道家でもあります。しかもなお80歳で「現代短歌シンポジウムin熊本」、81歳の昨年、短歌ファンタジー「水の女・青湖風説」を上演するなど、「老いていながらできる限り心は華やいでいて、だから生きている限り最後まで華やげ、輝け、という気持ち」といいます。
*
人間関係にはポエジーがない、過去や未来ではなく、「今」という一瞬を詠う安永蕗子の優美と格調、清冽と端正の歌風に、「水の精」のようだという人もいます。
*
近作の一首
またしても風に吹かれてボブ・ディラン叫ぶと聞けば野鴉が啼く
※ おにあざみ
|