原田知世 collaborate with 鈴木慶一

#3 原田知世 LIVE, LIVE, and more
#3 "Tomoyo Harada" LIVE, LIVE, and more

たこいきおし


 知世さんは熟成音楽にたどり着いた。
しかし円熟ではなく先がある。
※1


……とは、去る2008/03/01の原田知世Live tour "music & me"追加公演にゲスト参加した鈴木慶一の言葉であるが、なるほど、流石にうまいことをいうなあ、と、感じ入った次第。

 ツアーに先立って制作されたアルバム『music & me』はデビュー25thアニバーサリーアルバムと銘打たれていたが、その前のアルバム『My Pieces』との間には実は5年のブランクがあって、ファンとしても若干の不安がなくもなかったのだけれど、その不安はうれしい意味で杞憂に終わった、と思う。

 1992年から2002年までのおよそ10年間、鈴木慶一〜トーレ・ヨハンソン〜ゴンチチによるプロデュースを経てきた音楽活動の間は、今にして思えばヴォーカリストとしての立ち位置を模索していた時期だった、といえるように思う。

 かつてレビューしたこともあるが、この時期のアルバムはそれぞれに完成度〜それも、個々の楽曲というよりコンセプトアルバムとしての完成度の高い作品が多く、そこには、毎回新しいことにチャレンジすることでレベルアップを指向するスタンスがあったように思う。

 その反面、常に変化を指向することによる緊張感、立ち位置を確立しつつあるがまだ盤石ではないことによる緊張感も、今にして思えばあったように思う。

 今回、アルバムからも、ライブからも、そういった緊張感は感じられなかった。よい意味での弛緩、うまく肩の力の抜けた印象とでもいうべきか。

 といって、新しいことをしていない訳ではないのだが、新しいことをし続けなくてはいけない、という緊張感からのチャレンジ、というニュアンスはなく、きちんとした立ち位置があって、そこを基盤に新しいことにも手を伸ばしている、という、いわば大人の余裕といったニュアンス。


 例えば、同じライブの席で、やはりゲスト参加していた高橋幸宏から新バンド結成の告知があった。原田知世も参加しているそのバンド、pupaのデビューライブは6/2に恵比寿リキッドルームで行われたのであるが、これまでに経験のない、他のバンドメンバーと対等、同格でのバンド活動にも危なげがなく、それこそ、ベテラン高橋幸宏とも音楽で対等に渡り合ってしまう貫禄すら感じられた。


 新しいこと、といえば、上記の二つのライブの間には、音楽とも女優ともまた全然関係のない活動で、ちょっと意外なサプライズ(?)があった。

 下記の写真は今年3月にソニービルで開催されたイベント「リサとガスパール ソニービルへいく」の寸景なのであるが、ソニービルを絵本の人気キャラクター、リサとガスパールがジャックしてしまう、というこのイベント期間中、3/29に、実に唐突に「リサとガスパール読み聞かせ会」なる催しがあり、そのスペシャルゲストがなんと原田知世だったのである。

 原田知世の公式ホームページなどにはいっさい告知のなかったこのイベント、mixiの「リサとガスパール」コミュニティに入っている妻が、そちらでの情報で知り、申し込み葉書を送ったところ、抽選に当たったので参加することができた。

 いや、なんてことはない、原田知世が親子連れの前で絵本2冊(『リサとガスパールのであい』『リサ ママへプレゼント』)を読み聞かせる、というだけのイベントで(会場の子供たちは見知らぬお姉さん(笑)の読み聞かせより、その後にできてた着ぐるみのリサとガスパールの方がお好みだったようだけど(笑))、正味時間も10分ちょっとくらいか。ともあれ、なんでもこれが「読み聞かせ初挑戦」だそうで、もしかすると、今後の展開(?)などもあるのかも。


 因みに、現在の原田知世の世間的にもっとも認知度が高いと思われる活動としては、テレビ朝日系毎週日曜日の『にっぽん菜発見』のナレーションがあるのではないかと思うが、この「読み聞かせ」へのトライなどは、「声」「じゃべり」といったスキルが、「音楽」と同様に「成熟」したことから派生した活動、ととらえることもできるように思う。


 また、音楽活動を休止していた2003年以降、原田知世の目に見える活動は主に女優業であったといえる(多くの映画に精力的に出演)が、そちらの活動も、2006年公開の『紙屋悦子の青春』でひとつの「成熟」をみた、と思う。

 黒木和雄監督の遺作となった静かな戦争映画『紙屋悦子の青春』は、太平洋戦争末期の市井の人々の、極限状況下でもそれなりにちょっとした笑いに満ちた日常を淡々と描き、そこからいなくなる人の死の持つ重みを逆説的に描き出した秀作であり、これは、女優・原田知世の新しい代表作といえる作品だと思う。


 こうしてみると、現在の原田知世は「自在の境地」でもいうべきか、ミュージシャン、ナレーター、女優などのいずれの分野にあっても、自分に何ができて、何ができないか、といったパースペクティブをきちんと把握していて、自分のポテンシャルを最大限に生かす方法論を、自分の中で確立できているのではないか、と思う。その境地に至ったからこその、「余裕」、「弛緩」なのではないかと。

 既に活動が始まったpupaに限らず、今後の活動がいろいろと楽しみなところなのであるが、こうなるとファンの方にも「心配」とか「不安」はもはやない。正直、過去5年間の音楽活動休止の間は、「何かあったのか?」とか「ちゃんとミュージシャンとして復帰できるのか?」とか、たまに思わなくもなかったのだが、今回、アルバムやライブの「熟成音楽」を聴いて、ファンの方も悠然と構えることができるようになったように思う。

 いやもう、この先何があっても大丈夫(笑)。次のアルバムがまた5年後とかでも全然かまわないな(笑)。


25thアニバーサリーアルバム
『music & me』

 このアルバムの情報を初めて目にしたとき、まずは発売日に驚いた(笑)。

 11/28といえば、角川時代のファンにはなじみ深い日付、バースデイアルバムの発売日、つまりは原田知世の誕生日である。

 デビュー25thアニバーサリーアルバムは実は40歳バースデーアルバムでもあったのである。どっとはらい(笑)。

 なおかつ、「時をかける少女」セルフカバー(!)である。

 角川時代の曲のセルフカバーといえば、鈴木慶一プロデュース時代に「早春物語」「彼と彼女のソネット」を使ったくらいで、基本的には封印状態。一種の黒歴史(笑)、とまでいうと言い過ぎかもしれないが、ヴォーカリスト、ミュージシャンとしての立ち位置を模索している時期には、過去のアイドル時代を連想させるものは慎重に避けていた、であろうことは想像に難くない。特に、原田知世のパブリックイメージそのものといって過言ではない「時をかける少女」についてはいうに及ばず、である。

 これら2点だけでも、「肩の力が抜けた」感じはありありかと思ってはいたのだが、実際のアルバムも、尖ったところのない、いい感じに力の抜けた仕上がりであった。印象としては、『カコ』『Summer Breeze』などの洋楽カバーアルバムに近い。実際、洋楽からはバート・バカラックとビートルズの2曲のみだが、セルフカバーを含めると12曲中6曲が既存の曲のカバーとなっている。

 恐縮ながら、伊藤ゴローという人の名前は、今回のアルバムを聴くまでほとんど知らなかったのであるが、落ち着いたアレンジは原田知世の声質との親和性が高い。他の若手ミュージシャンも、原田知世本人の趣味から選んでいるとのことなので、初めての取り合わせでも歯車は合っている印象。で、要所要所を大貫妙子、鈴木慶一、高橋幸宏らの大御所クラスが、存在を主張し過ぎることなくさりげなく固めている。ボサノバ風にアレンジされた「時かけ」も、全体の中に違和感なく溶け込んで、アルバムのトリをうまく飾っている。

 正直、初めて聴いたときは、あまりにもするっと耳に入ってくるのでいささか物足りないようにも思われたのだが、繰り返し聴いているうちにじわじわと効いてくる感じ。今年前半ヘビーローテーションの愛聴盤である。


原田知世 live tour
"music & me"

 アルバム発売に合わせてのライブツアー。ツアーとしてはベスト盤『Best Harvest』をリリースした2001年以来になる。今回は2007年12月に4回、明けて2月に5回のけっこう長丁場のツアーとなっていた。因みに、3/1の追加公演はもともとの予定にはなく、急遽追加されたもの……だったのではあるが、ふたを開けてみると、その追加公演こそが、25thアニバーサリーにもっともふさわしい内容のライブとなっていた。

 今回のアルバムには、後半の2月のツアーのCD購入者先行予約のお知らせが入っており、当然ながら(笑)、購入してすぐに特設サイトで2/22の恵比寿ガーデンホールでの公演の申し込みをした。よほどアクセスが多かったのか、残念ながら抽選漏れ……だったのであるが、ほどなく落選者向けに追加公演の連絡メールがあり、再度の申し込みで追加公演のチケットは無事確保することができた(前半の12/22はもともと確保済)。

 しかし、これが運命の別れ道か(笑)? 2/22までの当初予定のツアーにはゲストの参加はなかったのであるが、3/1はなんとなんと、アルバムに参加したミュージシャンが全員(!)ゲストで出演する、というサプライズが後日発表されたのであった。いや、最初の抽選に外れた自分の運のよさ(笑)に感謝。

 そんなこんなで3/1、実は開場から開演まで、会場スタッフの手際の悪さにちょっとイライラさせられたりもしたのだが、ライブが始まって、原田知世の歌声が耳に入ってくると、そんなことはすっかり忘れて没入してしまった。先立つ12/22のライブももちろん悪くはなかったが、長丁場のライブツアーですっかり暖気運転されたのか、はたまたアニバーサリーにふさわしい趣向のライブに高揚していたのか、何割増かテンションが上がっているように感じられた。

 何しろゲストが多いので、ゲストが順番に出てきて、『music & me』での担当曲と+1曲程度コラボして引っ込む、という構成。ゲストのキャラクターがそれぞれ立っていて、なごやかながらもメリハリのあるライブになっていたと思う。

 アンコールでは、まずはキセルとともに登場し、シングルカット曲の「くちなしの丘」。その後の2曲目がちょっとすごかった。大貫妙子、鈴木慶一、高橋幸宏が3人そろって登場し、原田知世と4人で「Moon River」を1コーラスずつ歌い継ぐというゴージャスな趣向(!)。アンコール前は一人ずつ登場だったのであまり意識していなかったのだが、あれ? そういえば、この3人が同じライブの舞台に一緒に上がっていることって今までにあったっけ? これはもしかして、ちょっと、歴史的瞬間なのでは?

 大貫妙子と鈴木慶一ははちみつぱい時代から縁が深く、今世紀に入ってからも『Live Beautiful Songs』に一緒に参加したりもしている。鈴木慶一と高橋幸宏といえば、いうまでもなく二人のユニットビートニクスがあるし、高橋幸宏はムーンライダーズのライブにもよくゲストで出ている……と、考えて、そういえば、この3人が、というよりは、大貫妙子と高橋幸宏、という組み合わせがすごく珍しいのだ、ということに気がついた。そのことはMCでも「どうしてでしょう?」と話題になったのだが、高橋幸宏がしれっと「仲が悪いから」とか口走っていたのが印象的(笑)。冗談? 本気?

 で、その「Moon River」、いやもう、言葉ではとても表現できません。久しぶりに脳みそが溶けるような体験でした。

 で、アンコールの最後はやはり、伊藤ゴローのギターをバックに「時をかける少女」

 いや、これまで原田知世のベストライブは、今はなき日清パワーステーションでのアコースティックスペシャル『カコ』だと思っていたのだが、今回のライブは文句なし、いろいろな意味でそれを超えていたと断言してしまおう。

 幸いにして、NHKの収録が入っていたので、今回のライブの音源、映像は記録に残っている。ライブの模様は6月に既にNHK BS2、デジタルハイビジョンで放映されてしまったので、再放送があるかどうかはちょっと微妙かもしれないが、本当に気持ちのいいライブなので、機会があれば、もっと多くの人の耳に触れて欲しいところ……なんだけど、ソフト化されないかなあ。NHKじゃ無理か?


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Album Data

『music & me』 原田知世(2007/11/28発売)

01. Cruel Park(伊藤ゴロー オリジナル曲)
02. 色彩都市(大貫妙子選曲 カバー曲)
03. きみとぼく(伊藤ゴロー オリジナル曲)
04. Are You There ?(バートバカラック カバー曲/選曲&編曲:高橋幸宏)
05. I Will(ビートルズ カバー曲/コーラス:キセル)
06. Wondeful Life(オニキユウジ オリジナル曲)
07. 菩提樹の家(鈴木慶一 オリジナル曲)
08. シンシア(セルフカバー曲/編曲:伊藤ゴロー)
09. Aie(高木正勝 オリジナル曲)
10. ノスタルジア(伊藤ゴロー カバー曲)
11. くちなしの丘(キセル オリジナル曲)
12. 時をかける少女(セルフカバー曲/編曲:伊藤ゴロー)

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Live Data

原田知世 live tour "music & me" @東京

2007/12/22 浜離宮朝日ホール
OPEN 17:00 START 18:00

Musicians
原田知世/Vocal
伊藤ゴロー/Guitar
一本茂樹/Bass
伊藤葉子/Drums
中島ノブユキ/Piano, Keyboard
伊勢三木子/Violin


原田知世 live tour "music & me" 追加公演@恵比寿

2008/3/1 恵比寿 ザ・ガーデンホール
OPEN 17:00 START 18:00

Musicians
原田知世/Vocal
伊藤ゴロー/Guitar
鈴木正人/Bass
伊藤葉子/Drums
中島ノブユキ/Piano, Keyboard
伊勢三木子/Violin
徳澤青弦/Cello
吉野友加/Harp

Guests
大貫妙子
オニキユウジ
キセル
鈴木慶一
高木正勝
高橋幸宏
(50音順)

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※1 鈴木慶一blog「我がメインテナンスの日々」
   エントリ「2008-03-01-Sat ライヴにゲストで」より。
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