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第51回 “理性派のための恋愛論”
 掲載誌 糸納豆EXPRESS Vol.21. No.1.(通巻第36号)
 編集/発行 たこいきおし/蛸井潔
 発行日 2003/05/03


 唐突ではあるが、結婚などということをしてもう1年と8ケ月ほど経ってしまった(笑)。たこいが結婚などということをするなどとは、まわりも思っていなかっただろうし(笑)、自分でも思っていなかったので(笑)、今でもなんだか意外な感じがするのであるが(笑)、まあ、何とかなるものである(笑)。

 とはいえ、実際に結婚などしてみて思うのは、つくづく自分がいわゆる「恋愛体質」とは程遠いなあ、ということであったりする(笑)。そんなこんなで(笑)、今回のテーマは「理性派のための恋愛論」ということで……。

「一人でのんきに生きてく予定だったのになあ」
「二人でのんきに生きればいいのでは」
「なるほど」

 台詞はLaLa出身のささだあすかが白泉社のレディースコミック雑誌シルキーに出張(?)して発表した短編を1冊にまとめた短編集『片恋生活』のトリに収められた短編「見渡す限りの」のラストページより。

 大学卒業後、田舎の実家でのんきに暮らしていたヒロイン千香は、ひょんなことから弟の友人平蔵と知り合う。就職でその土地に来たばかりの平蔵をあちこち案内などしているうちに、なにぶん田舎のこと、すっかり噂になってしまい、家族からも結婚をすすめられる始末。へそを曲げて家を出てはみたものの……。

 この短編集の収録作に共通するのは、こういう、ロマンチックとは対極にあるような、日常や友情の延長にある、ごくごくささやかで穏やかな恋愛の風景である。


 『片恋生活』は、レディースコミックから出版されてはいるものの、露骨な描写(笑)とか、えげつない展開(笑)とか、読者体験記(笑)とかとは無縁で、どこにでもいそうな平凡な男女の日常に立脚したのほほんとした味わいの短編集である。

 そのあたりはささだあすかの元々の持ち味というべきで、LaLa掲載作と唯一違うのは、登場人物が20代半ばの社会人、というくらいだろうか。

「アロエっておトクそう……
 ーって考えてただろ、今」
「うわあ。バレましたか」

 台詞は、ささだあすかがLaLa本誌に連載していたのほほんガーデニングマンガ『日向で昼寝』より。

 本作のヒロイン、榎本小夏は高校1年生。作家をしている父親、美容師の母親と中学生の弟の4人家族。物語は、榎本家が建てたばかりの新居に引っ越してくるところから始まる。

 両親が共働きのため、榎本家の家事は小夏が担当しているのだが、父親が造園業者を呼ぶのをケチったために何もない状態の庭を何とかする庭係も、なりゆきで小夏の役目、ということに(笑)。

 どうしたものか、と何もない庭で沈思黙考する小夏の姿を不思議に思って通りがかりに 声をかけてきた一人の大学生。初めのうちはスーパーの安売りの日などを話題に井戸端会議をしていた小夏だが、彼が園芸店でバイトをしていると聞き、彼に師事(?)してガーデニングの道に足を踏み入れる。

 その大学生、綾井はいかにもおっとり型で、人から頼まれごとがあるとなんでも引き受けて、ちょっとくらい忙しくても不平をもらすでもなくおっとりおっとり暮らしている(笑)。

 小夏の庭作りを手伝いに足繁く榎本家に通ううち、綾井はなんだかすっかり家族の一員状態になるが、そこは生活感に埋没した一家の主婦(笑)の小夏と、おっとりした綾井のこと、特に何事もなく日々は過ぎていく。

 小夏は綾井の存在が気になってはいるものの、頼まれごとを断れない綾井の性格への遠慮から、庭作りへの助っ人を遠慮するようになる。一方、綾井の方はといえば、合コンで小夏を見初めた同級生から小夏の連絡先を教えるよう頼まれるが……。

 普段は頼まれごとを断ることのない綾井だが、この時ばかりはその同級生の頼みをきっぱり断る。それで勢い(笑)がついたのか、それから数日後、久しぶりに小夏に会いに来た綾井は、自分に対して遠慮しまくる小夏の態度も、勢い(笑)にまかせてきっぱり切って捨てる(笑)。

「俺が迷惑じゃないつったら迷惑じゃないの!!
 なかなか信じてくれない方が腹立ちます!!
 わかった!?」
「え、えーと…。ハイ…」

 男の子と女の子がくっつくに事欠いて、女の子を叱りとばす(笑)というのは……(笑)。とはいえ、普段恋愛に疎い人間同士、ただのなかよしから一歩踏み出すには、何かきっかけとか勢い(笑)が必要、という話なのでした(笑)。うんうん(笑)。そうだよねえ(笑)。

 小夏と綾井のちょっともどかしくもほほえましい間柄もさることながら、榎本家の家族関係のノリの楽しさなど、この『日向で昼寝』にはささだあすかの持ち味と思われる要素がぎっしり詰まっていて、なかなかおトクではないかと思う(笑)。


 ちょっと話を横道にそらすが、たこいが購読しているPC系のメールマガジンの連載コラムに「理系のための恋愛論」というのがある。PC系メルマガなんか読んでるような理系でおたくの恋愛音痴にお姉さんがいろいろ教えて上げよう、というはなはだおせっかいかつ迷惑なスタンスのコラムなのであるが(笑)、それなりに好評を博しているらしく、単行本にもまとめられたりしている。

 このコラム、初期においては確かに、いかにも「理系」的な男性サイドのロジカルさや合理主義が恋愛上のトラブルを引き起こした例を取り上げていたのだが、単行本が出たあたりから、流石にネタ切れになってきたのか、「理系」らしき事象とは何の関係もなく、「女の子ってこんなにわがままなんだけど、わがままの例を教えてあげるから、そのわがままにつきあいなさい」的な内容が多くなってきている……と、思う(笑)。

 閑話休題(笑)。ともあれ、このコラムが推奨しているところをおおざっぱに要約すると、恋愛と程遠い「理系」の男の子が、いわゆる恋愛体質の女の子とのおつきあいをいかにして成功させるか、ということに尽きると思う。しかし、そのコンセプトそのものに前提としていささか無理がある、と思うのはたこいだけであろうか(笑)?

「うん私も友達に結婚程遠いタイプって思われてました!
 もしかしてサラダ君もそう言われますね!?
 そんで ああ恋愛大好きー 恋のうたに夢中ーー ってなかんじのに引いちゃう方ですね。
 あーそうそう。そーですよね。
 鉄もですよね」

 こちらはささだあすかがLaLaDXで1999年から2003年にかけてのんびりと連載してきた『パジャマでごろん』より。

 大学2年のヒロインはるひと大学3年の鉄太郎は学生結婚して、新婚生活を満喫中(笑)。引用した台詞は、たまたま遊びに来た鉄の高校時代の友人、皿田とはるひとの会話(…というか、ほとんどはるひが一方的に話しているのであるが(笑))。

 学生結婚なんていうと、就職するまで待てないほど片時も離れられないような熱烈カップル(笑)みたいなイメージがあるのではないかと思われるが(笑)、はるひも鉄太郎も、周囲からみるとどちらかといえばマイペースで、一人でいる方が気楽なタイプ。異性に一目惚れしてまっしぐらとか、瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ的な大恋愛とは無縁だと、周囲からも思われていたし、自分でもそう思っていたクチ。

 そんな二人は、一緒に暮らせば独り暮らしと同じ家賃で広い部屋に住めるけど、こそこそ同棲するくらいならいっそ結婚しちゃえ、と勢いで結婚して、友人からは「ロマンチックのかけらもない」(笑)とか、「テンションひらたい感じ」(笑)とかいわれている。そんな二人も、二人きりになると、テンションひらたい(笑)なりにもけっこういちゃいちゃ(笑)でらぶらぶ(笑)だったりするのが、このマンガのミソである(笑)。

 「理系のための恋愛論」というコラムの意図するところは、つまりはそういうテンションのひらたいタイプの男性が、対極的なテンションの高い女性をなんとかするための指南書、ということになると思うのだが、そのために結婚に到るまで、さらには結婚してから何十年も、お互いのテンションの落差をすり合わせるために継続的な努力をしなくてはならないのだとしたら、それって本当に幸せな恋愛の形といっていいのだろうか、と微妙に違和感を感じてしまう今日この頃である(笑)。


 それでまあ、自分のことを顧みてみても、正直、他のことが目に入らなくなるような恋愛感情というのは理解できないし、たこいの妻もその点は似たりよったりなのではないかと思っている(笑)。

 要するに、お互い恋愛体質ではなくて、テンションひらたいのであるが(笑)、そのあたりも含めて、価値観のズレの少ないあたりが結婚に到る要因の中でも大きかったのではないかと、少なくともたこいはそう思っている(妻の方がどう思っているかは知らないが(笑))。

 そんなこんなで、テンションひらたいなりになんとか結婚生活を送っている人間からしてみると、『パジャマでごろん』という作品に描かれる新婚生活というのは、日常の些細なことで思い当たることがあってみたりあってみなかったり(笑)、なかなか楽しい。これはたこい家の結婚生活のバイブル(笑)である、とたこいは主張しているのであるが(笑)、妻からは「わたしはこんなことをいったり(やったり)しない」と冷ややかに返されたりして、若干の意見の不一致があったりもするのではあるが(笑)、まあそこはそれ(笑)。

 閑話休題(笑)。ささだあすかの作品は、割と共通してそういう非恋愛体質のキャラクター同士の恋愛を淡々と描く傾向にある、と思う。

「人を好きになるってどんな感じ?
 どうやって一人を選ぶの?」

 そんなささだあすかの出世作といえるのが、実質デビュー作でもある新人賞投稿作をシリーズ第1作とする『恋について語ってみようか』シリーズである。この台詞はその第1作で同タイトルの短編より。

 自分が恋愛体質ではないという自覚のあるヒロイン三島里香は、「人を好きになる」という気持ちをリサーチするために、隣の席の香川道哉にインタビューを試みる。が、いつも女の子に囲まれていて恋愛経験豊富に見えた香川も、実は恋愛には疎いタイプであることがわかり……。

 シリーズは、そんな里香と香川がお互いを徐々に意識していく中で、自分の中に生まれる感情を少しずつアイデンティファイしていく、という形で進行していく。そこで描かれるのは、直情的に行動してしまう前に、あれこれ考えてしまう、理性が先に立ってしまってなかなか大胆な行動が取れない、といったタイプの少女と少年の関係が少しずつ少しずつ進展していく、という物語である。

 例えば、「理系のための恋愛論」というコラム(に限らず世間一般的にそうだと思うのだが)が想定している恋愛というのは、こういうものではなくて、程度の差はあれ、恋愛体質の要素を持ち合わせている人間同士の関係を前提としているのではないかと思う。つまりは「人を好きになる」のは前提で、その後のことを論じようとしているわけだが、それ以前の段階、そもそも「人を好きになる」ということに対していろいろ逡巡してしまうような人間のことは相手にしていないのだと思う(笑)。

 しかし、当該コラムの想定読者層たる「理系」の未婚男性の中には、そもそもその段階で止まっている人がけっこういるのではないかと思う(少なくとも、たこいはそうだった(笑))。当該コラムを読んでたこいがなんとなく感じていた違和感の原因は、このあたりにあるのではないかと思う(笑)。

 そういう意味では、非恋愛体質を自覚している向きには、恋愛体質を前提とした恋愛論に対するアンチテーゼとして、一連のささだあすかの作品をオススメしておきたい。と、いっても、なにかの指南書とかにはならないと思うけど(笑)。


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