お楽しみはこれからだッ!!
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第43回 “悪魔のようなあいつ”
 掲載誌 糸納豆EXPRESS Vol.16. No.2.(通巻第32号)
 編集/発行 たこいきおし/蛸井潔
 発行日 1998/12/5


 どうも。今回の糸納豆はかなり血中SF濃度が低い(笑)ですが(今回に限ったことじゃないか(笑))、実は「お楽しみはこれからだッ!!」もSFとはほとんど関係ありません(笑)。

 とはいえ、いやしくもSFファンたるもの(笑)、子供の頃、星に憧れなかった人間はまずいるまい、ということで、今回のテーマは「悪魔のようなあいつ」ということでいってみましょう。

「あんなにいっぱい
 あるんだからさ
 あした見つからなくても
 あさって
 でなけりゃ そのさき
 見つけたいと思っていれば
 かならず見つかるよ
 星は なくならないから」

 この台詞はわかつきめぐみの今のところ最新作『きんぎんすなご』より。高校2年生の蓼子(りょうこ)は進路その他もろもろのことで親とケンカして、家を飛び出す。向かった先は、蓼子の元家庭教師の青年、今泉久義の住む片道9時間もかかる田舎の村。久義は高学歴で一流企業に入りながら、その職を辞して田舎に引きこもっている。蓼子と久義の共通点は「星が好きなこと」。

 平凡な日々に埋没しているうちに自分にとっての「目的」を見失ってしまった主人公が、「星への憧れ」をキーとして、周囲のアクの強いキャラクターたちとの関わりの中でその「憧れ」を自分の「目的」へと転化させていく……と、要約してみると、何か、別のマンガを連想しないだろうか?


 わたしはひとりで試合してたのに
 ひとりじゃなかったの
 だから、ひとりでやれる…!

 このモノローグは成田美名子初期の代表作『あいつ』より。そうですね、これしかない訳です(笑)。(ま、日渡早紀の『早紀シリーズ』なんてのもなくはないけど(笑))

 どちらかといえば「優等生」の部類に入る高校1年生泉みさと(16歳)は、となりに引っ越してきた破天荒な上級生コンビ沢田涼司、七穂辰之介に生活をかき回されて(笑)いるうちに、自分がいつの間にかストレートな好奇心やプリミティブな感動を忘れてしまっていたことに気づき、それを取り戻すきっかけとなった「星への憧れ」から、徐々に「天文」へと傾倒していく……。

 世の中には10代のときに読んでおくべき、というか10代のうちに読まなくては本来の意味での感動を純粋に味わえない、という類の作品というのが確かにあって、『あいつ』のような高校生ビルドゥングス・ロマンは、その最たるものではなかろうか。

 そして、『きんぎんすなご』は、たぶん、わかつきめぐみによる『あいつ』へのオマージュ、なんだと思う。

 わかつきめぐみという人は基本的には努力の人で、デビューまでにLaLaの新人賞に10回以上投稿をしている。それも、最初の9回ほどはCクラスの常連であった。その下積みともいえる投稿時代は、成田美名子の『あいつ』のLaLaへの連載時期とほぼ重なっていた筈である。しかも、『あいつ』連載当時(昭和54〜55年)わかつきめぐみの年齢は16〜17歳(!)。

 自分の投稿する雑誌で、自分と同じ夢を一歩先に果たした先輩が描く、ひたむきに「夢」を追う自分と同年齢の少女の物語。作風の違いから、成田美名子とわかつきめぐみを並べて考える、ということはあまりしたことがなかったんだけど、こうしてみると、シチュエーションとしてはできすぎ(笑)のような気もしてくる。

 因みに、『あいつ』の最終回は、成績優秀、容姿端麗で医学部志望の超エリートだが涼司にはいつもオモチャ扱いされていた名(迷?)バイ・プレーヤー楡崎麗を主人公にした番外編「アノヤロー」であったが、『きんぎんすなご』も単行本のラストは、久義の同僚にして同居人であるワガママの固まり(笑)夏目蒼一郎を主人公とした番外編「夏目家の謎」であった。

「──あそこで暮らしたいって思うのは
 逃げかなあ
 百合子さんやにーさんがいなくても
 あたしあそこで暮らしたいって思えるのかな」

 ここからは若干の余談になるが、わかつきめぐみの作品世界の特徴のひとつには「居心地のいい日常空間」というのがあるように思える。田舎で星を見て暮らす久義、蒼一郎、二人の雇い主の老婦人百合子らのいる空間は、『きんぎんすなご』においては主人公蓼子の「夢」の実現とリンクしていくことになる。

 『月は東に日は西に』の楽描倶楽部、『So What?』の秋津島家、『グレイテストな私達』の女子寮など、過去の(白泉社時代の)作品における「居心地のいい空間」は、「時期が来れば終わってしまう」ものであった。それが『きんぎんすなご』では、むしろ主人公の「到達すべき場所」になっているあたりにわかつきめぐみの作風の微妙な変化を感じると思うのはちょっとうがちすぎかなあ。


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