お楽しみはこれからだッ!!
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第4回 (細野不二彦のおたく指向について)
 掲載誌 TORANU TあNUKI 114〜117号
 (通巻第40号)
 編集/発行 渡辺英樹・渡辺睦夫/アンビヴァレンス
 発行日 1990/6/10


 連載ミーハー・コラム“お楽しみはこれからだッ!!”、第四回はいきなり何の脈絡もなくTORANU TあNUKIに登場。今回は外様というか、客分の身分なので、いさささささか、緊張しております。お手柔らかにお願いします。

「どうだ。自分で『波紋』をうけた気分は?」
(ぎいやああああ(ジョセフの悲鳴))
「んん〜。実にナイスな返事だ」

 荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』第二部クライマックスより。勝ち誇る究極生物カーズ。こいつ(カーズ)も本当にいい性格をしている、と思う(笑)。しかし、“勝ち誇る悪党”を描かせて荒木飛呂彦の右に出るものはいないのではないかと思う今日この頃です。たとえば……。

「『波紋』? 『呼吸法』だと?
 フーフー吹くなら……
 このおれのためにファンファーレでも吹いてるのが似合っているぞッ!」

「ほれッ。なにやってんだッ──ッ?
 しっかりクツみがきしろ、承太郎ッ!
 わたしは今すごーく気げんがいいッ!
 わたしの今の気分と同じくらい晴れた空がクッキリ映りこむぐらいピッカピカにみがいてもらおーかな」

 第一部よりディオ、第三部より“恋人(ラバーズ)”の鋼入りの(スティーリー)ダン(しかし露骨な肋骨なネーミングではある(笑))。毎日こーゆー台詞を考えながら『ジョジョ』を描いている荒木飛呂彦という人もかなりいい性格をしている、と思うな(笑)。


 僕の働いているサッポロビールには月に一回“ビール・デー”というのがある。何の事はない。就業時間後に講堂に集まってビールを飲むというだけなんだけど、去年の夏頃、その“ビール・デー”で、会社の新製品“リボンはちみつレモン”の試飲をしていた、としよう。

 新製品の評判は今イチでした(笑)。

 で、僕がその缶デザインを見て、「このくらいならオレの方がいいデザインをしてみせる!」とか大ボラを吹いていると、「僕も昔、イラストとかの仕事に関係してたんだけどね」という人がいる。よくよく話を聞いてみると、“SF雑誌のイラスト”“宮武・加藤”とかいう単語がとび出して来る!

 なんとその人はスタジオぬえの関係者だったのである(笑)。

「何にせよ、一生懸命になれる人っていうのは好感もてるものよ。それでいて有能ならば最高だわね。
 最悪なのは……………
 ハンパな人間──────
 身なりとか知識とか常識とかをふりかざして、もっと大切なことを知ろうとしない人間!!
 仲間を卑しめることで優越感に浸ろうとする人間!!
 そういう野郎を何て呼ぶか知ってるかい?
 下衆って言うんだよ!」

 別冊宝島“おたくの本”なんかを読むと、とにかく“その道”を極めた人間が大勢紹介されてて、おたくというのはエラい、みたいな気がしてくるけど、まあ、物事なべてピンとキリというのがある(笑)。ただ、こういう形でのおたくの擁護論は、去年の状況では確かに必要とされていたかもしんない。

 この台詞の登場する細野不二彦『あどりぶシネ倶楽部』のエピソードは、まだおたくという言葉が出回り始めたばかりの頃に書かれた、いわゆるおたく的なるものの擁護に他ならなかった。

 見方を変えてみれば『あどりぶ』自体が、おたく集団の話だと言えないこともない。“映画(シネマ)”にとりつかれた人間たちの物語。去年単行本にまとめられた近作『BLOW UP!』も、“映画”を“ジャズ”に置き換えただけで、一種のおたくの物語かもしれない。

 『あどりぶ』『BLOW〜』二作を読んでみると、一つの夢にとりつかれて、真剣に事にとりくんでいる人間は必然的に社会からはみ出した形にならざるを得ない。とでも言っているかの如くである。特に『BLOW〜』ではそれが顕著。もっとも、それは半ば“ジャズ”という題材を扱っているせいもあるような気はするのだけど。

 まあ、よくよく考えてみると、『さすがの猿飛』にしても『どっきりドクター』にしても、“忍者”“マッド・サイエンティスト”という、その道を極めた、社会の異端者を描いた物語である、と、言うことはできるな(笑)。

 さて、そんな訳だけど、細野不二彦がかつて属していたスタジオぬえというのも、そもそものところ、おたくの集まりみたいなものだよねえ(笑)。その事と、細野不二彦の作風(?)に関係があるかどうかは知らないけどね(笑)。


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