お楽しみはこれからだッ!!
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第35回 “世紀末救世主伝説”
 掲載誌 TORANU TあNUKI 176〜179号
 (通巻第58号)
 編集/発行 渡辺英樹・原科昌史/アンビヴァレンス
 発行日 1995/7/31


 既にお気づきの方もおられるかもしれないが、ここ3回ばかりTT掲載の「お楽しみはこれからだッ!!」は連載回数が連番である(笑)。毎回掲載誌を変える(笑)、という初期のポリシーがここにきて崩れていることになるが(笑)、ま、細かいことは気にしないってことで(笑)。

 え(笑)? そんな初期のポリシーなんていわなきゃ誰も覚えてない(笑)?

 ま、それはそれとして(笑)、ここのところネタが少女マンガばっかりだったので、今回は久しぶりに少年マンガでいってみよう。ということで、今回のテーマは“世紀末救世主伝説”(笑)。

「問題ない」

 台詞は、最近あちこちで取り上げられてるのでもしかすると知ってる人も多いかもしれないが、少年チャンピオン連載中の山口貴由『覚悟のススメ』より。

 文明が壊滅してしまった世紀末。地上最強の殺人技を身につけたニヒルな主人公が弱者を守り強者を叩き潰す、というのはまさにかつての『北斗の拳』に連なる系譜であるが、この『覚悟のススメ』の圧倒的な“異物感”はかつての『北斗』を完全に凌駕してしまっている。

 太平洋戦争末期、狂気の軍人葉隠四郎は来たるべき本土決戦に備え、最強の格闘技“零式防衛術”、異形の改造人間兵器“戦術鬼”、一体で都市一つを壊滅させる威力を持つ戦略兵器“強化外骨格”を完成させる。主人公葉隠覚悟は葉隠四郎の末裔であり、“強化外骨格・零”を身にまとい“零式防衛術”を駆使して悪と戦う! …のであるが、その作品世界の非常識さたるや、ちょっと並ではない。


 先にあげたように、舞台が滅亡後の荒廃した世界である点、主人公が身につけた技が本来殺人のためだけに錬磨されたものである点、敵のボスが主人公と同じ技を身に着けた主人公の兄である点など、『北斗』との類似点は枚挙に暇がないのであるが、『北斗』が『マッド・マックス』的世界を緻密に描写する原哲夫の画力によって少なくとも視覚的にはぎりぎりのリアリティを持っていたのに対し、この『覚悟』の世界は過剰にマンガチックであり極端なデフォルメとカリカチュアライズの嵐(笑)。作中シリアスに描かれているのは主人公とその父親、兄などごく少数で、それ以外のキャラクターは主人公の級友たちも敵組織の幹部から怪人、戦闘員にいたるまでギャグとしか思えないような描かれ方である。

 で、主人公の兄、現人鬼・散(はらら)率いる敵の組織“不退転戦鬼軍団”というのがまた無茶苦茶で(笑)、“機動鎧”と呼ばれる戦闘員は20年前の石森章太郎のマンガか島本和彦のマンガにでも出てきそうなアナクロな制服を着てるし(その割に素顔は妙にマッチョだったりする(笑))、怪人に相当する“戦術鬼軍団”はデブでブスのSM女王様(笑)だの心根のねじ曲がった老人(笑)だの制服大嫌いの反抗ロック少年(笑)だの色情狂の看護婦(笑)だの、いずれ劣らぬ変態揃い(笑)。「大地を汚した人間たちをこの地上から抹殺し、万物一体の境地を実現する」という現人鬼・散の目的自体は非常に高尚(笑)なのであるが(笑)、人類を抹殺した後に残るのがこんな変態とマッチョマンの集団で、一体どの辺が「万物一体の境地」になるのか、正常な神経を持った読者の目から見て、実に疑問を禁じ得ない(笑)。

「校長先生。早退の許可を」
「き、教育者である私に、
 決闘に行くから早退を許可しろと言うのかね、君は」
「避けられぬ戦いなれば」
(なんというりりしい瞳。決意の口もと。誰がこの少年を止められよう)
 行くがいい!
 君は学徒である前に軍人だ」
「行って参ります」

 ここまで述べてきたようなSM的変態描写の嵐というだけでも少年誌の連載マンガとしてはかなりアブナイ(笑)と思うのだが(笑)、ここに引用した会話に象徴されるように、このマンガ、思想的には思いっきり右に偏っている(笑)。まあ旧日本軍が人体実験を重ねて開発した格闘技と生体兵器という基本設定からして随分アヤしい代物なのだが、作中人物たちは敵も味方も老いも若きもことごとく右に偏りまくった言動(笑)を応酬し、それが当たり前というのがこの『覚悟』というマンガなのである(笑)。もっとも、そこには深い思想的背景は微塵も感じられない(笑)。上っ面だけ、形だけの“右”、ノンポリ右翼といった感が強い。

 このマンガの恐ろしいところは、SM的描写と右的言動の嵐の中でストーリーを強引に展開していくその勢いにある。あまりの勢いに、ひとたびページをめくるとそのままずるずると読まされてしまう(笑)。これは確かに今までなかったマンガである。しかし作者の真意がどうにも読めない(笑)。読む側としてはすべてを手の込んだギャグとして楽しんでしまうことも出来なくはないんだけど、作品からは“本気の気迫”が感じられてならない(まあ、ギャグのつもりだけで描いたいたらこんな勢いのあるマンガにはまずなるまい(笑))。

 でもなあ(笑)、ノンポリ右翼って真性の右翼よりほっぽど危ないって思うんだけどなあ(笑)。


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