お楽しみはこれからだッ!!
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第22回 “おとなは判ってくれない”
 掲載誌 霧笛11
 編集/発行 五×嵐耕/五×嵐耕・五×嵐宏子
 発行日 1992/12/10


 “霧笛”はなんだかんだいっていい刊行ペースで出ているので、気がついてみると新しい号が届いてる、ってことが多い。おかげでなかなか毎号載せてもらうのが難しかったりするのであった(笑)。

 さて、連載第22回。今回のテーマは、“おとなは判ってくれない”。

「どれも違うよぉ。
 美樹ちゃんはね、徒党を組むのが嫌いなの。
 小学校の頃からずっと同じ学校だったけど、いっつも一人でいるのよ。
 ちょっと意地っぱりなところもあるけど、すっごく優しくて子供みたいに可愛いところがあるの。
 …だけどなんてゆうか、自然体すぎるから皆から浮いちゃうんだよね」

 作品はララ1992年9・10月号掲載の橘裕「ホット・ステップ」。

 何というか、こーゆーあからさまなセリフってのは、抜き出して書いてみると妙に気恥ずかしかったりする(笑)。

 主人公の女の子は中学の頃ちょっと不良してて、周囲からなんとはなしに敬遠されている。その彼女が1年前にたった一度見かけて以来気になってる“手負いの獣のような目をした”少年……(笑)。

 いやー、恥ずかしい(笑)。あらすじ書いててこれだけ恥ずかしい話ってのもそうそうないぞ(笑)。

 まあ、お決まりというかなんというか、少年の方には複雑な出生の秘密があってみたり(笑)、女の子はその少年の目に自分と同じものを見出して次第に魅かれていったりする訳である(笑)。いやあ(笑)。実にセオリー通りの話だなあ(笑)。


 この橘裕という人、ララの本誌に初めて載った「狼少年」は実は血がつながってない(笑)姉と弟の恋愛、という話だったし、新人賞の時の「雪の魔法」なんかは初めてのデートの日に車に轢かれてしまった男の子が執念で幽体離脱してデートを敢行するという…。

 この人はこーゆー大昔の少女マンガにあったようなシチュエーションが好きなのかどうか知らないけど、わりとよく自分の作品に使うのである。

 とはいえ、“大昔使われていた”、ということは、いわば少女マンガの“王道”なのであって、かつてその道を歩いた作品、というのが当然過去に存在している筈である。

「あんた…。どっか似てるな、新田と。
 オレたちみたいにいなおっちまうには正直すぎるし、かといってふつうのおりこうちゃん生徒じゃもういられねえし。
 純粋っていや純粋だけど、一番へたでソンなやりかただ」

 と、いう訳で、70年代には一世を風靡していた高橋亮子にご登場願ってしまったりする(笑)。台詞は往年の名作『坂道のぼれ!』(77年)より。

 名門の受験高での生活からドロップアウトしてしまった主人公柚木亜砂子は地方のごく普通の高校に一年遅れで再入学する。そこで出会った新田友は近隣の高校生でその名を知らぬもののない有名な不良少年。といっても、番を張ってるとかいう訳じゃなくて、孤高を保っている。友の目に自分と同じ孤独な光を感じた亜砂子は次第に彼に魅かれていく。

 友は大病院の院長の息子なんだけど、ここの家ってのが3人兄弟それぞれ母親が違うという無茶苦茶な家庭で(笑)、友は受験ノイローゼで女の子を襲ってしまった長兄の罪を被って不良の烙印を押された、という次第。その兄貴の方は弟に罪を被せて平然としてたりする。「ホット・ステップ」にもノイローゼとコンプレックスの塊になって少年に嫌がらせをする従兄というのが出てきて、それで少年は苦境に陥ってたりするんだけど、必ずいるんだな、こーゆーやつって(笑)。

 まあ、昨今は“この手”のパターンの話はあんまりみかけない。

 高橋亮子のマンガは大抵このパターンだった。“自分”というものを通そうとして社会からちょっとドロップアウトしてしまったような主人公たちが人生とか恋愛に対して真剣に悩み、次々とふりかかってくる様々な出来事を通じて成長していく、という。

 かつてはそういう世界がとても心地よく感じられた。しかし今読み返してみると多分に気恥ずかしくはある。まあ、そういう意味では70年代の少女マンガが持っていた時代の気分をかなり強く引きずっているマンガなのかもしれない。こういう世界だけを一貫して描き続けていた高橋亮子は『迷子の領分』(81年)を最後に少女コミックの本誌から姿を消すことになる。

 『迷子の領分』とやや前後する形で少女コミック誌上に連載された川原由美子の初期の代表作『KNOCK!』(80年)というのは、わりと高橋亮子的な要素の色濃く感じられる作品だった(と思う)。その川原由美子が『すくらんぶるゲーム』(81年)『前略ミルクハウス』(83年)といった方向にベクトルを向けていったところで、一つの“70年代”が終わりを告げたんじゃないか。個人的にはそんな風に考えているのだけど、どんなもんでしょうかね(笑)。


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