寄稿

平塚市市民活動推進条例について


 綿引


              
 
   1) 市民活動推進条例の内容
 
 2002年9月 平塚市市民活動推進条例が成立した。柱は大きく4つある。
  @ 市民活動推進のための拠点を整備すること
  A 市民活動を財政的に支援する基金を設置し(市が基金を拠出)信託銀行が管理すること
  B 公共施設の運用にあたっては市民活動団体との連携、施設の提供を通じて市民活動の推進に寄与すること
  C 条例内容の進捗状況を調査審議するために市民活動推進委員会を設置すること である。
 特にAはこの条例の目玉といってよい。市の拠出した基金から毎年一定額が市民団体に助成される。条例文には明示されていないが、第3者機関である運営委員会が設置され、透明性を確保した審査を経て助成先が決定されることとなっている。これまでの不透明な補助金のあり方を変え、また審査過程に工夫を凝らすことで、市民活動団体の内容が市民に広くアピールできる効果が期待できる。世田谷区、沖縄の那覇市などで前例があり、市民活動の活性化が促進されるものと思われる。 しかし、この条例が制定されるまでのプロセスには、検討委員会副委員長として条例大綱案づくりに参加した私には平塚市の手法に対する疑念とともに反省もある。
 
   2)市民活動推進条例が成立するまでのプロセス
 
 市民活動推進条例が成立するまでには、2000年10月から、市長の委嘱を受けた検討委員15名(公募の市民3名、市内活動団体関係者5名、その他5名、行政職員2名、)が、ほぼ1年、18回の議論を経て大綱案をまとめ、その後大綱案の変更を経て議会に提出、成立している。大綱案は最大限尊重されるという前提のもとに、委員会は、言葉の一字一句を慎重に討議し、それゆえ合意を経るまでにかなりの時間を費やした。委員会が作成した大綱案の根幹をなす考え方は「協働」にあった。「なんのために行政が民間の自発的な活動である市民活動を支援するのか」という命題は明快ないようで実はいろんな考え方がある。市民委員の多くは、これまでの行政主導のまちづくりのあり方を変えるところに主眼を置いていた。行政がすべてを決め、市民に形だけの参加を促すのではなく、まず、行政職員がまちづくりの主役は市民であることを自覚し、己の姿を変えていくという前提にたって、市民の自発的な活動を尊重し、市民活動の基盤整備を行うための施策を本条例で定めていくというスタンスが確認された。
 それゆえ、大綱案の基本理念は行政と市民との「協働のまちづくり」が謳われ、「市職員に対して適切な教育、研修等を実施し、市民活動及び協働のまちづくりに関する理解と相互協力を促進するよう努めなければならない」とまで定められていた。
 しかし、庁内調整(!)を経て議会に提出された大綱案は、「協働のまちづくり」の文言および市職員への教育項目の削除がなされるなど、行政改革の視点は抜け落ちたものとなった。結果的に市民活動推進のための具体的施策に大きな違いはなくても、「何のための推進なのか」という出発点が、行政改革なのか「まだ力のない市民活動を行政とも企業とも同じような力を持てるように援助してあげましょう」という発想なのかは大きな違いである。行政の姿を変えずして、市民運動がもてはやされる行き先には様々な落とし穴が待ち受けていると自戒したほうがよい。
 市民に勝手に議論させておいて、後は庁内調整でばっさりは、これまでの手法となんら変わりがない。まさにこのような行政と市民の関係を変えるための条例づくりではなかったのかと、大綱案の議会への提出の遅れ、大綱案の変更に暗澹たる思いをもった。
 とはいえ、このようなプロセスを踏んだのは、担当部署の悪意というより未熟さに起因している。
 私たちの議論も決して成熟していたわけではない。お互いの未熟さの中から学んだのは、検討委員会のみならず広汎な市民の議論の場を設け、庁内調整も平行させるという、市民と行政の議論を交差させながら前に進んでいくなど、信頼関係を醸造するための「プロセスの確認」をすべきであったということである。
 これから基金が設置され、来年春には市民活動支援センターも開所される。条例づくりに関わった者として、器に魂をいれる営みに参加し、注視していきたい。

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