自治基本条例を考える市民委員会の活動を終えて

全員公募という参加を売りにしただけなのか


平塚市自治基本条例を考える市民委員会元委員
 森川 小林 赤松 



 2004年3月議会施政方針において大蔵市長は、「総合的な行政運営の基本を明確にするために、自治体の憲法ともいうべき自治基本条例の制定に向けた準備を進める」とのことで始まったものである。4月25日58名の公募の市民により市民委員会が組織された。当初から策定委員会が市民委員会と職員プロジェクトチームの上部組織と位置づけられた図が示され参加者から疑問が呈された。それに対し事務局は、「何より市民委員会が主体」と説明し、とりあえずその後月2回委員会が持たれ進め方や自治基本条例とは何かなど議論を重ねた。そうした市民の思いを書き出し、項目に整理し、さらに条例文案としてそれぞれの市民委員が文章化した。条例文案検討チームがたたき台の文章としてまとめ市民委員会に諮った。
 以後の過程には多くの問題点があった。既に活動していた世話人会の組織を土台にとりまとめに向けた活動が淡々と進められたのである。例えば、国分寺市の条例作りでは1つの単語を巡って4ケ月間の議論を重ねる形で進められたが、本市では自治基本条例の策定について期限を優先して作業が行なわれたのである。その背景には大蔵市長の一期目の公約で掲げられたものであり、その任期中に可決・制定させることが至上命題であった事情が挙げられるだろう。世話人会は、市民委員会本体の司会・運営の背景になるものであったが、司会の担当者と事務局、それに会議の支援を行なうコンサルタントとの開かれた準備が必要であると度々指摘されたが、結局実現されることはなかった。そして作業が進む中で世話人会をもとにした条例文案検討委員会が組織されたものの市民委員会の運営の基本であった開かれた出入り自由の運営は結局継続されなかった。
 条例文案検討委員会と策定委員会発足以後の市民委員会の運営はひどく硬直化することになった。市民委員会発足当初開かれた運営を主張していた委員が、作業の進行を重視し、発言の機会すら確保しない会議にしていったことは象徴的であったと言えるだろう。結果から見れば、コアなメンバーが明確化する中で、世話人会から条例文案検討委員会、そして策定委員会という組織を利用しながら、徐々に市民委員会を硬直化させ、発言の機会も減らし、多くのメンバーの参加の機会を減じていったと言えるだろう。そして何より重大だったのは、当初の事務局の「何より市民委員会が主体」と言う発言を担当のまちづくり政策室の新たな職員が覆し、「策定委員会は学識者や団体代表も入り委嘱状も出される格上の組織である」と当初の説明を覆したことに端的に表れていたと言えるだろう。前言を一方的に覆すような行政とはとても協働などできる状況ではないのかもしれない。

 こうしたことから以下の問題点を改めて項目としてふり返って見たい。
〔1〕 スケジュールが短かった。
 実質1年4ケ月で終った。市長が当初から17年度中の条例化を目指し、市民委員会では延期もあると市長と確認していたが、常に事務局からスケジュール表か示され、強引に市長の提案どおりに市民委員会は終了させられた。市長のトップダウンと言わざるを得ない。時間に追われて多くの一般の市民にまで理解を求め議論するに至らなかった。
〔2〕 十分な議論や検討が行われていない。
 自治基本条例を自治体の憲法と位置づけるのであれば、十分な検討と憲法、地方自治法などをふまえたり、平塚市行政の実態を確認する必要があったにもかかわらず、勉強も実態把握、今後の見通しも不十分で自治基本条例の価値を見極められなかった。
〔3〕 合意がつくれなかった。  
自治基本条例市民委員会としての最終文案であるべきだが、全文を参加市民が読み合わせることさえできなかった。
〔4〕 自治についての議論が不充分だった。
 大和市では数年にわたり市民が議論を重ねた経緯があり、自治の概念についても十分議論されたが、平塚では概念を共有するまでには至らなかった。
〔5〕 自治体としての憲法,最高法規と言いながら、総合計画やまちづくり条例の公募委員会との調整を行なっていない。

 自治についてのプロセス、手法、内容など、市民自らの意思で自分たちのまちの憲法をつくった実感はない。多くの市民委員はそれぞれ熱い思いを持っていたが、すりかえられたような、利用されたような複雑な気持ではないだろうか。
 地方分権が目指しているのは、自治そのものの充実である。そして自治とは、市民が自ら考え行動し、行政、議会と協働してまちづくりを進めていくことである。しかし実社会において、市民の自治は弱く、平塚市においても自治をつくる重要なきっかけであったにもかかわらず、今回の市民委員会は中身が疑問の残る結果となった。
 
 

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