生物学的裏付け


 この考えの出発点となるべき基本的命題をクローズアップさせたのは直感にすぎなかったが、そう信ずベき相当の根拠が私にはあった。それが生物学なのである。

 その頃私は高校の生物の授業で、「生物を生物たらしめているのは、自己保存本能と種族保存本能である。」ということを習っていた。これは唯物論的にみて明らかなことである。唯物論が信じられないという人には、実証主義的に見て、あるいは科学的精神からして、と言いかえてもいい。

 これにもうひとつ、「自己保存本能は種族保存本能に優先する。」という命題を加えれば、私の考えの基礎は完成する。

 「自分が幸福になりたい」というのが自己保存本能のあらわれであり、「人類すベてが幸福であって欲しい」という願いが種族保存本能のあらわれなのである。前者をエゴと呼び、後者を愛と呼び換えることもできる。

 したがつてこの二者は往々にして相反する場合がある。だがそういう場合、数少ない例外を除いて、人は前者を優先させるのである。これは誰もが日常に多々経験することであろう。


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