私が作った最初のシステム



 なにせ中学生だったので、予算が自由にならないのが一番辛かった。それでも最低の予算で最高の音にすべく、私が構築した最初のステレオシステムは次のようなものだった。

 これらをどういう順序で手に入れていったかは良く覚えていない。だが、このラインアップで一応満足する音がでるようになったことだけは確かだった。これが最高の音だという自信はなかったが、自分で満足できればそれでよいのだ。当時(中学生時代)もっとも良く聴いていたレコードはアルフレッドハウゼのコンチネンタルタンゴとポールモーリアのストリングだった。



プレーヤー

●マイクロの MR-411

 ステレオサウンド誌をためつすがめつ眺めて研究した結果、もっともコストパーフォーマンスの高いものと確信して買ったのがこれだった。定価39800円のものを秋葉原で値切りに値切って28000円で買ってきたのだった。

 これも買ってきた当時は宝物でも手に入れたように大切に扱っていたのを懐かしく思い出す。

 しかし、これはやはり2級品というしかない。中学生の頃は満足して聴いていたが、所詮MMカートリッジの音でしかなかった。


プリアンプ

●ラックスの PZ12B

 そのうち、真空管式のプリアンプを自作してやろうと思っていたので、「とりあえず、仮に使えるものを」ということで買ったのがこのPZ12Bというプリアンプだった。昭和46年当時、定価でも19000円でしかなかった。ところがこれが実にいい音で、結局クリスキットに換えるまでずっとメインのマシンであり続けた。S/N比はイマイチだが、音の質は現在でも最高の部類に入るものだと確信している。ただ、入力が2系統しかなく、テープレコーダーとの接続端子もないのでコントロールセンターとしては役不足だった。そこで、基盤だけを取り出して秋葉原で買ってきた大きめのケースに入れ、必要なセレクターなどを付け加えて使うことにした。名付けて“PZ12C”。

 また、電源を入れるときのショックノイズがかなり大きかったので、電源部を自作のものに替えた。

 ラックス式のトーンコントロールが実によくできている。後に測定器を使って、ボリューム中央で完全にf特がフラットになるのを確認した。


メインアンプ

●ラックスの KMQ60


 これを初めて見たのは秋葉原のラジオセンターの2階だったと思う。まずはその美しさに見とれてしまった。運命的出会いというのはこうやって訪れるのかと思ったほどそれはインパクトの強い体験だった。前面に真空管が並んでいるのだが、それが50CA10というコンパクトロンで、GT管のような無骨さが感じられない。OY型出力トランスが使われていて、これが何とも言えない絶妙のカーブを持っている。深緑色のシャーシを厚いアルミシャーシが包むように覆っていてそのヘアライン仕上げがまろやかな光を纏っている。実に美しかった。まさに一目ぼれといってもいい体験だった。

 カタログなどで調べると、完成品のMQ60は62000円、キットのKMQ60が46000円だった。それまでいくつもラジオなどを組み立てていたので私は迷うことなくキットを選んだ。親にねだってやっと手に入れたときは天にも昇るような気持ちだった。この組み立て説明書が実によくできていた。それに従って、私は一つ一つの配線にも細心の注意をはらって組み立てていった。我ながらこれ以上の美しさはないと言うほど完璧な仕上がりだった。今見てもそこには当時の私の魂が宿っているような気がするくらいだ。電源を入れると真空管がしだいにオレンジ色の光を発し、50CA10のプレートの周りには幽かに紫色の蛍光が現れる。薄緑色の真空管ソケットとの色の競演。

 もちろん音は最高だった。3極管のプッシュプルという構成は奇数次の高調波が打ち消されて出てこないので、真空管では理想的な回路である。唯一の欠点はパワーがあまり大きくないことだが、KMQ-60は50CA10のおかげで片チャンネル公称30Wという出力を持っている。もっとも、私の実測値では無歪み出力は24Wだったが・・・。私が実験した限りではこれは充分な出力だと思う。スピーカーの能率にも依るが、普通聴いているときのパワーはかなり大きい音だと感じても0.1〜0.3Wくらいのものだ。1Wなんていう出力は近所迷惑になってしまうほどの大音量なのだ。

 回路図を次に示すが、このようにシンプルで美しい回路はいい音がするものである。また、音の良さは、OYシリーズというアウトプットトランスによるところが大きい。

 このトランスは一度断線したことがあったが、10年の保証が付いていて、神田のラックスに持って行ったらタダで交換してくれたのを思い出す。



スピーカー

●ダイヤトーンの P610A を2本、純正のボックスに入れたもの
  P610Aの音の良さは当時から定評があったが、その値段からは想像もできない。実際にそれを確かめたのは偶然のことだった。秋葉原で買い物をした折り、P610Aが一つだけ買える金が残ったので、ちょっと試してみようというくらいの軽い気持ちで買って帰ったのであった。これを6A7と取り替えてみてその音の良さに驚いてしまった。左スピーカーだけしか取り替えられなかったわけだが、そっちにばかり耳を付けてその美しい音にまさに聞きほれてしまった。

 これだけ美しい音はないと確信した私は早速2本パラで使う純正のスピーカーボックスを秋葉原で買ってきた。早速といってもそうそう自由になる金があったわけではなく、親にねだって買ってもらうわけだからずいぶん時間がかかったのではないかと思うが、どのくらい経って手に入れられたのか、もうすっかり忘れてしまった。しかしそれは大正解だった。今でもこれ以上いい音のするスピーカーはないのではないかと思っている。何とも言えないつやがあって、瑞々しい音なのだ。

 ただ、低音だけはやはり不足気味だった。実を言うと不足というわけではないのだが、ロクハンでは低音域のストロークが目で見えるほど大きいため、割れてしまうのではないかと心配になってしまい、精神衛生上良くないのだ。低域をカットしてスーパーウーハーを付ければ最高かもしれない。あるいは8本ぐらいパラにして使えばどんな音がするか今でもわくわくするものがある。




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