四十がらのおなら          作   遠賀 香月(おんが かつき)  ある、おくふかい、山の村にすみ、山しごとでくらしている、年おいた、しょうじきなおじいさんと、おばあさんがいました。  いつものように、おばあさんは。 「けものにとられないように、きをつけてなあ」と、べんとうを、おじいさんに、わたしました。  おじいさんは。 「うん、じゃあいってくるからなあ」と、こしにしっかりと、べんとうをくくり、山へはたらきに、でかけていきました。  山みちを、のぼりのぼり、しごとばにつきました。さっそくべんとうを、ちかくの木のえだにぶらさげ、しごとをはじめました。  おじいさんは、いっしょうけんめいに、山のしごとに、せいだしました。  おひさまが、ま上にのぼって、ひるどきになりました。  おじいさんは。 「そろそろひるじゃ、しょくじをしよう」といって、しごとをやめ、べんとうをとりにいきました。  ちゃんと木にぶらさがっていたので、あんしんし、おじいさんは、べんとうをとって。「やれ、やれ」と、そばの木のねに、こしをおろし、しょくじをすることにしました。  おじいさんは。 「はらがへったなあ、さあたべよう」と、おばあさんがたんねんに、つくってくれた、べんとうのふろしきを、ときました。にっこりわらって、ふたをとると、おじいさんは、べんとうの中をみて、びっくりしました。 「これはなんじゃ」いつものごはんが、はいっていませんでした。  おどろいたおじいさんは、中をよくよく見ると、なんなと四十がらのふんが、いっぱいはいっていました。  これはどうしたものか、しょくじをしなければ、ひるからのしごとができないし、かえるにしても、はらがへってあるけない、こまったおじいさんは、しばらくかんがえていましたが。 「よし、おもいきってたべよう」といい、おいしくはなかったが、ぜんぶたべてしまいました。  ちょっとやすみ、またひるからのしごとを、はじめました。  しばらくすると、おなかがはって、おならがでました。すると、なんと。 『四十がら、ヤマがら、こがねのさかづき、スッポンピー、ヒロヒロ、ヒロ』と、おなかがいうではありませんか。おじいさんはびっくり、おかしなことだと、おどろきました。 ゆうがたになり、しごとをやめて、おうちにかえるとすぐ、おじいさんは。 「へんなことじゃ」と、おばあさんに、べんとうのことや、おならのことを、くわしくはなしました。  おばあさんもおどろいて。 「ちゃんとごはんをいれましたよ、ふしぎなこともあるもんじゃ」と、びっくりしたように、ききいっていました。  それからおじいさんは、おならをするたびごとに。 『四十がら、ヤマがら、こがねのさかづき、スッポンピー、ヒロヒロ、ヒロ』と、いうのでした。  ふしぎなことだと、きんじょのひとに、はなすと、いつのまにか、このはなしが、ひろまって、だれひとりしらないものが、いないほどになりました。  そしてとうとう、いつのまにか、おとのさままで、しれることになって、しまったのでした。  おとのさまは。 「それはおもしろいことじゃ、ぜひ、いちどきいてみたい」といって、おじいさんをおしろによぶよう、けらいにいいつけました。  さっそくけらいは、おじいさんのおうちにいって。 「おとのさまが、おならを、ききたいといっておられる、ぜひあした、おしろへくるように」と、つたえました。  おじいさんは、これまた、おどろきましたが、おとのさまの、いいつけなので、いくことにしました。  よくじつ、さっそくおしろへいくと、おとのさまや、おおぜいのひとが、じっとまつていました。  どうなることかと、おそるおそる、おとのさまのまえにでると、おとのさまは。 「たいそうおもしろい、おならをするのはおまえか」と、たずねました。  おじいさんは。 「はいそうです、わたしもふしぎでなりません、はずかしくおもっております」というと、 おとのさまは。 「かまわない、はやくきかせてくれ」と、いいました。  おじいさんは。 「はい、それでは」といって、こしをあげ、おもいきりちからをいれ、おならをしました。 『四十がら、ヤマがら、こがねのさかづき、スッポンピー、ヒロヒロ、ヒロ』  おとのさまをはじめ、みなのものは、びっくりしました。  おじいさんは、あたまをふかふかとさげ。「はずかしいことで」と、いいました。  おとのさまは。 「いや、いや、これはおもしろかった、めずらしいことじゃ、わさざわざきてくれてありがとう、そなたにおれいをしよう」といって、 たくさんのごほうびの、しなじなを、おじいさんに、あたえました。  このはなしがまたも、むらじゅうに、ひろがっていきました。  これをきいた、むらのずるかしこい、ひゃくしょうが。 「おれもごほうびがほしい」とおもい、四十がらのふんを、たくさんあつめました。そうして、おもいきり、ふんをたくさんたべました。  むらじょゅうのひとに。 「わしも、かわったおならがでる」と、いいふらしました。  これまた、おとのさまに、しれることになり、ずるかしこい、ひゃくしょうは、おしろにでかけることに、なりました。  そして、おとのさまや、おおぜいのまえで、おもいきり、ちからをいれ、おならをしました。  ところが。 「ブブー、ブー、ブブー、ブー」と、なるといっしょに、それはそれは、とてもくさい、においがしました。  おとのさまや、みなのものは、はなをつまんで、にげていきました。  おこったおとのさまは、うそをいった、ひゃくしょうを、しかりつけ、ろうにいれ、はたらくばつを、あたえたと、いうことでした。