●●●池袋モンパルナスの故事来歴●●●
戦前の雑誌にこんな記事がある。
- 池袋から長崎町にかけては、芸術家と称される種族が住んでゐる。それと並行的にダンサー、キネマ俳優など消費的な生活者に、無頼漢、カトリック僧侶など異色的人物を配し、サラリーマン、学生等が氾濫してゐる、地方人の寄り集りであるこの植民地東京の中でも最も人種別においてバラヱテーに富む池袋付近は、従つて東京人の精神的機構を語る材料がタップリある。なかでも神経質をもつて売物とする芸術家の生活において、脳の働きと心臓のチックタックの状態が醸し出す不思議な雰囲気は恰も巴里の芸術街モンパルナスを彷彿させるものがある。 ・・・ 遠く池袋の空が夜の光りを反映して美しく見える頃、画家達はパチリパチリとアトリヱの電灯を消して長崎町から、池袋へ出かけて行く、特別の用事があるわけではなく、ただ遠くの手がさし招くままに、足がふらふらその方向に向いて行くのである。
- 池袋モンパルナスに夜が来た
- 学生、無頼漢、芸術家が町に出る
- 彼女のために、神経をつかへ
- あまり太くもなく、細くもない
- ありあはせの神経を――。
- ・・・・・・
――「サンデー毎日」昭和13年7月31日号 by 小熊秀雄。 「池袋モンパルナス」(by 宇佐見 承氏:集英社文庫)より掲載。
スミレ博士(注:研究にいそしむ時、デデはスミレ博士になるのだ)は、現在、縄張りと重なる池袋モンパルナス地域の調査にいそしんでおる。これは、その報告書第一弾なのであーる。
「東京の中でも最も人種別においてバラヱテーに富む池袋付近」という記述は、まさに至言。もちろん現在では表向き、芸術家の姿は見えんがな。その代わりネコ路地の奥から突然、ドイツ人とターバンを巻いたインド人が、「うちの女房がねえ・・・」などと日本語で話をしながら現れたりする。もちろんシャム猫とペルシャ猫も仲良く同居している。