悪意無き嫌み


長い間音信の無かった知人と会う時は、懐かしいと同時に非常に緊張します。
会わなかった間に自分に起こった事と同等の事、或いはそれ以上の事が相手の身にも起こっている訳です。 そう考えると、迂闊な事は言えません。
「奥さんとは上手くいってる?」「今別居中なんだ」
「仕事はどう?」「会社が倒産して今失業中なんだ」
「俺のあげたギター、まだ使ってる?」「火事で全部焼けたよ」
これを避けるには、当たり障りの無い話題から相手の現在の状況というものをじわじわ聞き出すしかありません。
ところが、相手も自分の事をそう簡単には言いません。 思い出したくない辛い出来事なら尚更です。
かといって、本当に当たり障りの無い事ばかり話していたんでは、何の為に会ったのだか分かりません。
「最近若乃花強いね」「うん」
「横綱になれるかなあ」「なれるんじゃない」
「そういえば巨人の桑田が復活したね」「うんそうだね」
何か他に話す事はないんかい、と横でツッコミを入れてやりたくなります。

僕が大学で留学していた時、もとい留年していた時、 高校の同級生の間で僕が大学院に進学しているというデマが流れました。 旧友に会う度、誤解を解いてまわったのですが、 鈍い奴はそれが僕の傷口だと気付かずに、さらに塩を擦り付けるような事を言ったものです。
「えっ、だって樋口君確か現役だよねぇ。あっもしかして医学部だった?」「理だ、理。」
「じゃどうして?年数が合わんやん。」「ドッペルやってん。」
「どっぺるって何?」「ダブりだ、ダブり。留年したんじゃい。何か文句あるか!」
「なんで留年したん?」「なんでもええやん。勉強が好きやから留年したんや。悪いか!」

悪意無き嫌み、言わないように言われないように注意しましょう。
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