98/01/03 Adobe PageMaker6.5J : DTPを超えるツールとなるか?

Adobe Illustratorユーザへの優待販売(4.5万円)で、PageMaker6.5Jを購入してしまった。筆者は2年前に弱小出版社で働いていたことがあり、その時QuarkXpress3.3Jをいじっていた。その会社ではOASYS中心にDTPを行っており、Macを用いたDTPには正直いって以降できていなかった。その理由は、OASYSのリソースがあまりに大きかったこともあるが、根本的な理由はやはり社内体制にあった。版下の9割ができた時点で独占社長が抜本的なレイアウトの変更を要請する。部下はとにかく意欲を示しつつ、その非合理的な要請に従うことが社長により期待される。合理性は関係なく、如何に忠実なイヌとして働くかどうかが問題なのである。これでは、移植のような合理的かつ長期にわたる綿密な作業を行う人材が居着くわけがない。さらに、OASYSのノウハウを持ち、自分の技術および仕事を手放したくないアルバイトの女性陣が、社長の方針に追従する。カードデータベースに1000項目ぶち込めばファイル容量が一杯になってしまうような旧システムは、そのようにしてながらえてきたのである。まぁ以下は「ディルバート」に譲るが、そこで私はひたすらQuarkXpressのAppleScriptを書いて自動処理をしたり、JGAWKを用いて索引テキストのバッチ整形を行っていたのである(さすがに5カ月我慢して辞めたのだが・・・)。

QuarkXpressと比較して遜色ない機能

閑話休題、とにかくXpress一色だったDTP業界ではあまり取りざたされて来なかったPageMakerであるが、今回の新バージョンは、マニュアルを見る限り「ほとんどQuarkXpressと遜色ないじゃん・・・」という印象を持った。いや、レイヤー機能、索引生成機能や、日本語組版でのフリガナ作成機能など、Xpressにはデフォルト装備されておらず、サードパーティからのXtension(これがまたバカ高い)を購入するほかなかった機能まで含まれているのには驚いた。面白いのが頁数の多いドキュメントをパート別の書類に分割し、グループ化するブック機能。DTPのドキュメントはただでさえサイズが大きくなり、おまけにサイズが大きくなればなるほど壊れやすい。Xpressを使っていたときも、LANで別のマシンにコピーするだけでファイルが開かなくなるようなことが多々あり、章別にこまかく分けてファイルを作成していたものである。

デジタルパブリッシングの中心的役割

もっとも、最近、DTPの仕事はとんとご無沙汰であり、それだけでは私をPageMaker購入に踏み切らせる動機には乏しい。実はPageMakerにはもう一つの顔がある。それは、PDFドキュメントや、HTML文書などを作成する際のデジタルパブリッシングの中心としての役割である。ここでは、現時点で私の気づいた、個人的に興味深いポイントをいくつか挙げる。

HTML形式への書き出しがサポートされているが、もちろんこれはHTMLの規格自体が持つ書式によって限定されており、書体の微調整や罫線などのHTMLにない形式はすっとばされる。これがDHTMLやJAVA書き出しに対応すれば面白いが、そこまでやりたいのならフツーはPDFを使う。ところで、HTML書き出しがサポートされているということは、ハイパーリンクを含めてドキュメントを管理できるということである。索引機能も含めて、煩雑なウェブサイトのドキュメント管理をPageMakerで一元化できるのではないか、という見通しが開けてくる。ここらへんは面白いところなので、実験を重ねて、もう少し研究してみたい。

さらに特筆しておきたいのは、HTMLドキュメントの読み込みがサポートされている点である。クラリスワークスなど書き出しに対応しているワープロソフトは多かったが、読み込みに対応するものは、筆者の知る限りほとんどない。これには困っていた。それはなぜか。インターネット上で提供されるソフトやSDKのマニュアルといった、場合によっては数百頁におよぶ大部のドキュメントは、ほとんどが次の3種類のフォーマットで提供されている。すなわち、RTF(MS-Word)、PDF、そしてHTMLである。ところでHTMLはページのレイアウトを考えていないので、ネスケなどのブラウザからドキュメントの印刷をかけると、表の途中がちょん切れたりして悲惨な印刷結果になる。いままでは他のソフトに読み込んで編集しようと思っても、対応するソフトが見あたらなかったのである。しかしながら、ためしにいくつかHTMLファイル読み込んで見るかぎり、あまりきれいに整形されないようであり、最も便利なのはPDFであるといえる。ちなみにMSが嫌いなのでWordをデインストールしてしまった(嘘。ホントはシステムを7.5.5にしたらなぜか急に立ち上がらなくなった)私は、RTF形式のドキュメントは泪を飲んで捨てていたが、これもPageMakerで読み込めるようである。

タグやスクリプト処理のサポート

定型処理を行う際に重宝するのがタグである。データベースソフトとAWKなどのテキスト処理システムを併用して、辞書データなどの大量の定形データを、タグを付属したテキストデータとして書き出す。その後、PageMakerに流し込むことで、ルーチン的な処理を大幅に自動化することができるのである。PageMaker6.5JではQuarkXpressのタグも読み込むことができるようになっている。

スクリプト処理を用いれば、さらにテキスト書式以外のレイアウトも自動生成することができる。QuarkXpressではAppleScriptに対応しており、ほとんどのパラメータをそこから制御することができた。PageMakerではクロスプラットフォーム仕様の関係もあるのか、独自のスクリプトを採用し、AppleScriptからはdo scriptで独自スクリプトを起動するという仕組みになっているようだ。ユーザガイドにはほとんど説明がないが、スクリプト仕様に関するPDFドキュメント"SLguideJ.pdf"が"RSRC"フォルダ中にインストールされているので、それを読んでしこしこスクリプトを作成するとよい。

技術文書・定形文書はFrameMakerで

Adobeからは、PageMakerと並び、もう一つのDTPソフトFrameMakerの新バージョンも登場している。こちらはデモ版を触っただけであるが、私のようなマニュアル好きには、機会があればぜひいじり倒してみたいと思わせるソフトである。値段もワンランク高いSGML対応版やUNIX版が出ていることからも分かるが、定形文書やマニュアルを作成するためのソフトウェアである。

PageMakerとFrameMaker、両者の違いを典型的に表しているのがそれぞれの表組み機能の扱いである。PageMaker6.5Jでは、表作成のために、Adobe Tableという補助的なアプリが提供されている。インターフェースはMS-Excelの小型版といったところだ。ここで作成した表は、OLE機能を使いPageMaker書類中にダイナミックリンクされるか、TIFF書類として書き出してPageMaker書類中に配置される。つまり、表はあくまでも画像データとして配置されるわけだ。当然、ページにまたがった表を作成する際は、いちいち画像を分割するなどの煩雑な処理を行う必要がある。インラインイメージとして表を挿入したり、罫線を使って疑似表組みを行うという次善策もあるが、煩雑さはあまり変わらない。QuarkXpressでも同じような悩みはあり、ユーザの手によって、罫線で表組みを作成するAppleScriptが作成されたりしたことがある。一方FrameMakerでは表は文章中に挿入され、流し込むテキストや表の大きさに従って、自動的に表組みが分割表示される。ここらへんのインターフェースは、どことなくMS-Wordをほうふつとさせるが、このソフトも文書の定型化を前提とした処理を行うものであった。

高機能ワープロとして使え!

以上、いろいろ書いてきたが、やはり一番大きな点はその価格である。QuarkXpressは実売15万円、ハードウェアキー付きと、まず常人の購入できる価格ではない。Macromedia Directorも同じ価格帯であるが、アニメーションなど、感覚的に楽しめるからまだ救いがある。1ミリ以下のカーニング処理のためにこれだけの投資が必要であるこのアプリは、やはり業務用というべきだろう。しかし、PageMakerは半額近い価格で同程度以上の機能を備えている。書類を印字する機会があり、インターネットを使っているユーザなら、高機能ワープロとして投資する意義は十分だろう。


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