V.5章 21世紀の時計・宝飾店はこうなる

宝飾品が時計・宝飾店の経営を下支えしている

 時計・宝飾店は時計・宝飾品という、商品としては全く異なる特性を持った商品を取り扱う専門店である。
 通産省「商業統計」では、「時計・眼鏡・光学機械小売業」に分類されている。現実の店舗は時計・宝飾・眼鏡の三商品を取り扱う店舗があれば、そのうちの二商品だけを組み合わせて品揃えしている店舗など、様々である。
 時計・眼鏡・光学機械はレンズ・精密機械という同一の商品特性があるが、宝飾品は時計が高価なものであった頃、宝飾品と考えられていたので、その名残りではないかと考えられる。
 時計・宝飾店のデータはないので、商業統計を基に、現状を考察する(図表V−5−1参照)。
 94年(H6)の店舗数は20,906店であり、前回91年(H3)時の21,565店からは659店の減少である。率にして、3.1%の減少であり、小売業平均の6.6%よりは小さい数字である。全体からみれば、衰退産業ではない。
 今回、94年(H6)の調査から、貴金属製品小売業が「他に分類されない小売業」から格上げされ、独立した分類項目になっている。それは貴金属店の伸びが著しい状況にあると考えてよいだろう。
 貴金属製品小売業(図表V−5−2参照)は、12,816店であり、時計小売業と合計すると、約32,000店となる。さらに、百貨店数が2,267店あるので、約35,000店が時計ないしは宝飾店を扱っている店舗と言えよう。
 時計は従来の機械式からクォーツ式(50年頃から一般化)の登場により、低価格化が進み、また故障が少ないことから修理が減少し、専門品から実用品に役割を変化させてきた。その結果、時計専門店からスーパーやディスカウンターでの販売が可能となり、競争を激化させている。
 また、宝飾品は昭和30年代に金製品の自由化が行われたことから、ジュエリー専門店が出現した。さらに、円高が宝飾品の輸入を促進し、高価格から大衆価格になり、貴金属品からアクセサリー・ファッションとしての実用品まで、幅広い役割を果たすことになった。
 「21世紀に向けての時計・宝飾・眼鏡小売業活性化の方向」(全日本時計宝飾眼鏡商業協同組合連合会)の報告書の中に、時計・宝飾・眼鏡の兼業による調査結果がある。それによると、時計・宝飾の兼業店は年商1億円以上が36.1%であるのに対し、時計・眼鏡の兼業店はわずか4%である。時計・眼鏡兼業店の経営は厳しく、年商2千万円未満が50.0%である。
 同報告書によれば、

時計・宝飾の兼業店は、「高級装身具を揃える」という意味で兼業の妥当性は高いだろう。また、時計・眼鏡の兼業店は「伝統的な業種店」という色彩が強く、零細商店が多いだろう。一方、時計・宝飾・眼鏡の兼業店は経営者意識として「時計がダメなら宝飾、宝飾がダメなら眼鏡」というように経営の危機感が鈍りやすい性格を持っているだろう。

とコメントしている。

21世紀には時計・宝飾店の10%以上が消える

 図表V−5−1は過去の商業統計のデータを基に、2009年を推計したものである。これによれば、2009年には18,208店となり、94年時の12.9%は存在していないことになる。
 前述したように、時計・宝飾の兼業店は比較的年商が大きいだけに生き残る可能性はあるが、それでも小規模店の生き残りは相当難しいと言える。
 91年と94年を従業者規模別にみると、1〜2人規模の店舗は748店の減少である。全体では659店の減少なので、零細規模店の厳しさが分かる。この傾向は今後も強まることはあっても弱まることはないと予想されるので、減少する2,698店のほとんどは小規模店と考えてよいだろう。
 1店当たりの売場面積は94年の60.3uから100.8uと拡大している。時計・宝飾品ともに、商品自体は小さいのだが、ファッション品であるため、センス・デザイン志向が強く、品揃えの幅は広くせざるを得ない。これが売場面積を広げる要因となっている。
 貴金属製品小売業は時計・宝飾小売業と比較すれば売場面積はやや狭く、94年の調査では100u以下がほとんどだが、これからの店舗は品揃えの広がりを考えると拡大していくことは間違いない。
 2009年の売上は54.9%と大きな伸びを示しているが、この要因は宝飾品と考えてよいだろう。
 時計と宝飾品の各商品特性で大きく異なるのは時計は時間を知るための道具であり、それにファッション性が付加されているため、所有個数は多くなく、買い替え頻度が少ないことが上げられる。
 「時計小売業の明日への道」(東京時計宝石眼鏡小売協同組合)によれば、一世帯平均3年に1個の購入サイクルである。クォーツ式になり、低価格化しているので、故障を修理するよりも使い捨て感覚になっていると考えられる。
 それでも、宝飾品のように、多ければ多いほどよいという消費者意識はない。その点、宝飾品に対するニーズは無限と言ってよい。しかも、デザイン等を重視するファッション的色彩が強いので、一定期間を経過すると使用せずにタンス在庫になる。そして、次の宝飾品を買い求めるということになる。宝飾品販売店にとっては善循環が経営を支えているといっても過言ではない。
 このため、宝飾品の市場は今後も拡大することは間違いない。特に、貴金属製品小売業の伸びは著しいと推測される。
 時計の販売は実用品・高級品・超高級品とに分化し、超高級品は従来通り、時計・宝飾店での販売が主になると思われる。高級品・実用品はスーパー・ディスカウンター等のウエイトが高くなる。実用品に至っては書店・文具店などで販売されるだけではなく、ファミリーレストランの商品売場のような場所でも販売されることになり、時計宝飾店でのウエイトは小さくなる。
 地域密着型の時計・宝飾店は時計の商品販売よりも、電池交換・修理を主体としたサービスに徹する店舗が多くなる。
 商品販売中心の店舗は際だった特徴を持つ店舗だけになる。
 例えば、特定ブランドに絞り込んだり、あるいはダイバーウォッチのように、特定の目的を持った時計のみに限定した品揃えをしているなどである。
 現在、時計の保証期間は1年から3年、5年と長くなる傾向にあるが、このアフターサービスに特化することも、ひとつのあり方と言える。
 例えば、腕時計を購入すると必ず出てくる問題が、電池交換である。
 前掲した報告書「21世紀に向けての時計・宝飾・眼鏡小売業活性化の方向」によれば、電池交換代1回当たりの平均金額は、
  高額商品   2,555.8円
  中額商品   1,791.5円
  キャラクター商品  1,165.3円
であり、年商1億円以上の店舗は100円〜900円ほど低くなっている。年商の低い店舗は電池交換で売上を稼ぐため高い代金となり、売上規模の高い店舗はサービス的要素が強くなっていると考えられる。
 アフターサービスを強化している店舗は電池交換を無料にしている。無料にすれば顧客のリピートがあり、買い替え需要につなげることができる。
 このように、アフターサービスは今回購入した商品のフォローと考えるよりも、次回購入へのワンステップと捉えたサービス提供と考えるべきである。
 一方、21世紀の宝飾店はどのような状況が想定されるだろうか。
 時計販売の厳しさから、既存の時計・宝飾店の多くは宝飾店中心の店舗になっていくだろう。専業店になる店舗も相当数考えられる。
 宝飾品は3万円以下のアクセサリーから50万円以上のプレステイジ・ジュエリーまで、幅広い商品特性を持っている。この特性を生かした業態分化が進んでいく。
 大規模店(100u以上)は総合的品揃えが可能だが、それ以下の店舗では立地条件・顧客ターゲットを考慮した業態化が進み、多様な店舗展開となっている。

●女子中高生を対象にしたコギャル店舗
●記念日ギフトを対象としたアニバーサリー 店舗
●結納・結婚式向けのウェディング店舗
●OL対象のファッション店舗
●懇親会向けのパーティー店舗
●××式典向けのセレモニー店舗
●ダイヤモンドなど、石別のストーン店舗
●イヤリング・ピアスなど、商品を種類限定 したスペシャリティー店舗
●原産国別のオリジン店舗
●加工・修理を主体としたメンテナンス店舗
などが想定される。

時計・宝飾店は専門店に徹すれば生き残れる

 時計・宝飾店の中でも、時計を主体としている店舗はかなり厳しい状況になると予想されるので、相当の努力が必要である。
 第1に、時計修理のプロになれ。
 地域密着型店舗なら時計修理は必須サービスである。修理技術は修理だけに役立つものではなく、接客時のアドバイスにも大いに役立つ。
 時計に関する知識は「時計修理技能検定」を受験するのが一番早道である。合格すれば、それを看板にし、アピールしよう。
 時計のプロとして認識されることは間違いない。修理だけではなく、「気軽にご相談下さい」と一言添えておこう。
 第2は、専門店としての販売技術の習得。
 時計は他店との差別化を出しにくいので、店舗づくりや接客サービスで優位性を発揮する。だが、時計・宝飾店は職人気質があり、接客は苦手な人が多い。組合団体が検討している「時計販売士(仮称)」を学習し、専門店としての顧客満足度を高めよう。
 第3は、単品管理の徹底。
 時計・宝飾品はともに商品アイテム数が多く、単品管理を行いにくい。かといって、経験と勘に頼る管理では売れる商品も売れなくなる。必要なことは顧客にとって買いたい商品が陳列されているかである。それはPOSを導入し、徹底した単品管理を行うしかないであろう。
 第4は、固定客化を図る。
 繁栄している時計・宝飾店には6割の固定客がいると言われている。固定客に依存しすぎるのは危険だが、あまりに低いのでは将来の発展は望みにくい。
 小売業は顧客とのつながりが成長の礎である。それを大きく強固にすることが大切である。
 時計・宝飾店は小売業の中でも顧客管理しやすい業種である。時計修理やローン払いなど、顧客の情報を手に入れやすい。その情報を基に、次の来店動機につなげたい。
 誕生日のメッセージや新商品のDM、展示会の開催案内など、コミュニケーションを密にし、来店機会を逃さないことである。
 第5は、積極的な情報提供に心掛けよ。
 特に、宝飾品は情報なくしては顧客には何も分からない。そのために、宝石鑑定を行う団体が約30団体存在している。しかし、鑑定書はあっても、その内容は分からない。それを分かりやすく教えるのが、専門店の仕事である。顧客は頼りになる店を選択するものだ。
 第6は、商品を売るな、アトモスフィアを売れ。
 時計にしろ、宝飾品にしろ、顧客が身につけるものである。行動を共にするだけに、商品が顧客とイコールである。従って、商品だけを考えるのではなく、身につけた状況を想定し、全体の雰囲気(アトモスフィア)で販売するべきである。


資料:「21世紀の小売業はこう変る」(発行 経営情報出版社)