照明光によるグレイバランスなら正しい色再現ができる
   要は、明確なプリント基準をつくって正しい色がだせる<システム>をつくることである。私は、二〇年前に、撮影光源からの照明光をフィルムに記録してプリント基準をつくり、その照明光記録部でグレイバランスをとってプリントするという<標準カラープリントの製作法>の原理特許を出願し、後に特許を獲得した。(注2)そして<こうすれば正しい色が出せる>というタイトルで、そのノウハウを日本カメラ誌(注3)に発表した。グレイバランスシステムのはじめての提案である。  最終的なプリントの色と濃度は、先のように使用フィルムにはじまり、撮影時の色温度その他、無数といってよい多くの要件に支配されるが、これらをいちいちチェクするのではきりがない。また、その必要はない。  私のグレイバランスは、中間の要件は放っておいて<頭>と<尻尾>を捉えればよいというセオリーである。つまり、撮影では、被写体とは別に撮影光源からの照明光(頭)をフィルムに記録し、これが最終プリント(尻尾)で中性灰色(グレイ)になるように調節し、その条件で被写体画像をプリントする。  この方法は、<頭>の部分でグレイにするための調節を行うが、従来のように被写体画像の調整は行わない。しかし、正しい撮影さえ行われていれば、被写体の灰色は必ず灰色として再現され、さきに述べた、フェリアのない、正しい撮影結果がプリントにだせる。  特許では、今のホワイトバランスを自動的におこなうビデオカメラのように、照明光をカメラに導入する方法が第一の方法として記載されている。しかし、この方法はカメラからつくり直さねばならない。そこで、カメラレンズ面にDF(デイフューザー、乳白拡散板)を装着して照明光を記録するという第二の方法を実施した。これなら、どんなカメラでもプリント基準のための<照明光記録>が簡単にできる。  撮影時の操作は、そのDFをレンズ面にあてがって、カメラを撮影光源に向けて露出を合わせてシャッターを切るだけである。こうすれば、グレイカードを撮影位置においてこれを画面一杯に写し込んだのと同様の照明光記録部が簡単につくれる。これをグレイネガ(Gネガ)と呼ぶ。これが、プリント上で反射濃度0・7の正しいグレイになるようにして被写体画像を焼き付ければよい。こうすれば、機械的に、ポンとボタンを押せば簡単、確実に正しい撮影結果がだせる。  もっとも、自家プリントでは、グレイを調整し判定するそれなりのノウハウが必要になる。そこで、グレイの基準となる<グレイサンプル>、及び、使用すべきYMCフィルターが容易に見いだせるカラーチャート<CCフィルターガイド>を製作し、オーダーのシステムと自家プリント、また、リバーサルの問題を解決できるようシステム化し、これを市販(注4)した。  このシステムでは、複写の場合はグレイカードをワンカット写して同じ露出でオリジナルを複写し、実写ではディフューザーで照明光を記録して適正露出で被写体を撮影し、いずれの場合も、Gネガ部分でグレイバランスをとってコンタクトをつくる。こうすれば、被写体ネガのテストをしなくても、被写体に含められた灰色が正しい灰色として再現された正常なコンタクトが簡単につくれる。  撮影光源が変わっても、各光源を写したGネガでグレイバランスをとれば、蛍光灯であろうと、タングステンであろうと正しい色(被写体のグレイがグレイにという意味での)が可能になる。  自画自賛で恐縮だが、自家プリントでも数枚のテストだけでほとんど失敗なく、簡単に質の高い美しいカラープリントが可能になる。その具体的な方法はシリーズ日本カメラ八四号<現像・引き伸ばし入門>(日本カメラ社)に解説した。これを読んで自家プリントに成功して感激された中川敦夫氏の日本カメラ誌への投稿「カラープリント初体験に感激」(注5)にも見られるように、この方法は実際的にもきわめて有効であることが実証されている。  多摩美術大学の私が担当するカラー写真実習では、このシステムの応用と写真研究室の努力によって、一学年一六〇名という多数の学生に、それも半日で、複写と実写の2本分のコンタクトと確実な二枚の8x10プリントをわずか二、三回のテストで成功させるという実習が可能になった。  確実な表現技術を学んだ学生たちは、作品制作が意のままに行えるので意欲的になり、作品の質も明らかによくなり、全紙やロールカラー印画紙を使っての作品製作も珍しくない。あとでのべる感光材料の平面性を保持するバキュームシステムの併用もあって、プリントの質はラボ以上といっても言い過ぎではない。意志通りにシャープな仕上げが可能になるからである。  機会があれば、できるだけ書き、講演もするようにしている。多摩美で毎年秋に開催している「50人の眼」展では、そのためのワークショップを併設している。一昨年は筑波の大学院で、また、今夏は、ニューヨークのロングアイランド大学のサウスハンプトン校でも開催して好評を得て、現状の色の問題を解決するには、グレイバランスしかないことを、あらためて痛感してきた。他の大学や、専門学校でも、カラー写真教育にご利用いただければと思う。できるだけ無駄な失敗は避けたいものである。プリント基準が不明確なまま、ゼロ点調整なしに、曖昧な記憶や推測だけで被写体画像のテストをおこなう従来の方法は、嫌気を誘う原因になるだけでなく、はっきりいって、印画紙と時間と労力の無駄であると思う。
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