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WRITE IT LOUD!! ROLL OF ROCKS

                        1996年10月11日開始

                                  火だるまG

第2回:ACCIDENTALLY LIKE A MARTYR/WARREN ZEVON (1978 IN EXCITABLE BOY)

  『電話が鳴るわけもなし、
太陽も顔を出すのを拒否してやがる。
とっくの昔にマスターしていたはずのことで、
こんなに痛い目にあうなんて、マジで思いもしなかった。

俺たちは狂乱の恋をし、
ひそやかな恋をし、
淫らな恋をし、
禁じられた恋をする。
そして、そんな時にだけ、あたかも自分が殉教者であるがごとくに、
もがき、苦しむ。

陽が沈んでいく。
こうすべきだったのか。
ああすべきだったのか。
ため息ばかりが口につく。
時間なんて、本当にずいぶん長いこと、気にしたことなんてなかったのに、
こんなに孤独を感じちまうなんて、マジで思いもしなかった。

俺たちは狂乱の恋をし、
ひそやかな恋をし、
淫らな恋をし、
禁じられた恋をする。
そして、そんな時にだけ、あたかも自分が殉教者であるがごとくに、
もがき、苦しむ』

『それから三十を過ぎたやつはだれも信用できないというのはヒッピー世代の過ちである。三十がだめだなんてとんでもない話だ。人は七、八歳のときからがんじがらめになって、仕込まれてきている。自由そうに見える若者がたくさんいるが、それは肉体や活力といった化学現象であって、精神の働きとは関係ない。私は自由な男たちに、場違いなところで会ってきている。あらゆる世代の人たちだった。掃除夫とか、車泥棒とか、洗車係とかだ。私は自由な女たちにも会っている。たいていは看護婦とかウェイトレスとかで、やはりいろんな世代の人たちだった。自由な魂はありふれているわけではないが、会えばわかるものだ。いっしょにいたり、そばにいたりすれば、腹の底から楽しくなって、愉快に過ごせるからである』(「バッドトリップ」から、『ありきたりの狂気の物語』チャールズ・ブコウスキー/青野聰訳)

つい10年ほど前まで、僕は人生には、柳田国男さんがいうように、ハレとケがあって、退屈なケの日常も、時々はやってくるであろう、ハレの絢爛により相殺される仕組みになっているのだと思っていました。
そして、ケの退屈にたえられないままに就職し、ハレの瞬間を求めて、旅をし、恋愛をしたりしました。しかし、ある時、すとんと、そのような刹那的な方法論ではなく、つまらない、ケの世界の日々の充実こそが、生きるということなのだと思えるようになったのです。それで、方向転換して、ドロップアウトしました。簡単にいえば、ハレの世界もつまらねぇ、から、ちょっとはましなケを生きてみたくなった、ということですが。
僕ら、遅れてきたロックエイジの同時代選手、ウオーレン・ジボンに出会ったのは、高校生の時で、この曲の含まれている『EXCITABLE BOY』の前の、彼のファーストLP『WARREN ZEVON』には、黙ってエアコンの音に耳を傾けている様子を歌にしてしまっていることなどから、しかも、それをうつろな響きという感触ではなく、実に美しくエネルギッシュなメロディーにしてしまっているということなどから、深い感銘を受けていたのです。でも、それが、本当の意味で、自分のものになったのは、そんな、ある時からのような気がします。
昔よくあったような、あなたが無人島に持っていくこの1枚はなんですか? という質問をされたりすれば、そのような文脈から、僕は、『WARREN ZEVON』と答えます。
「ACCIDENTALLY LIKE A MARTYR」は御覧の通り、人間は恋愛の時にだけ、妙にまじめになったりする、という真理をさりげなく歌ったものですが、僕は、そのほかの時にも、なるべく、真剣に生きなくてはならぬな、などと、この歌を聴くたびに思ったりします。この曲が、コモンストックでリクエストされることはありえませんので、店で、これがかかる時は、ケの世界のあまりの厳しさに弱気を感じたるもする僕が、自分に鞭をいれたい気分の時です。
昔、泉谷しげるさんが「土曜の夜君と帰る」という曲で、みごとに、この「ACCIDENTALLY LIKE A MARTYR」を換骨奪胎していることに気がつき、妙に、うれしかったことがあります。こんなマイナーな曲をパクるとは、彼も、よっぽど、似たような人種なんだな、なんて、失礼にも思ったりしました。
僕のこの歌詞にスポットをあてる連載で、取り上げる曲の音楽面が最高に格好いいことは保証します。大音量で10回続けて聴いてみてください。きっと感じるものがあるでしょう。(この企画、文章、考え方などの著作権は一応存在するといっておきます)


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