「フーニー、フーニー」「又始まった」ジネが2本のナイフを刃をこすり合せてギコギコ
とリズミカルな音を作り始めた。飼い猫のフーニーを呼んでいる。薄茶の毛に赤いりぼん
の首輪、見るからにかわいい猫で皆から愛されていた。他に2匹いたが、彼女もこのフー
ニーを特にかわいがっていた。猫の餌やりが彼女の仕事だ。夫のパパジョンから見れば、
ジネ自体も猫みたいなもので「ジネ、ジネ、メシができたぞー」と毎日外に向かって叫ぶ
。その後例の「フーニー」が聞こえた。「ジネも昔はこんなじゃなかったんだが」パパジ
ョンが嘆く。どうしてこうなったか、実は10数年前息子のニコルをバイクの事故で亡く
してからだと言う。定年後の老夫婦の生活では、別に妻が日中外出していても、家事をし
なくても生活に支障はないと言うのがパパジョンの考え方だろう、彼が全てをキリモリし
ていた。ジネは、相変わらずお化粧をして人の家で油を売るのが日課。