東伏見緑道公園

 西武新宿線東伏見駅の南口から、線路沿いの道を所沢方面に少し歩いて左折する。しばらく行くと、しゃれた三階建ての都営アパートがいくつも現れる。この都営住宅群に沿って、その西側に東伏見緑道公園がある。

 この公園は、その名の通り左右に花や潅木を配置した、全長約200m、幅3-4m程度の細長い「緑道」である。「緑道」の二カ所に藤棚のようなものがあって、その下にベンチとテーブルが置かれている。私が行ったときは、おじさんが一人、そのベンチに座り、テーブルにひじを突いて頭を抱え込んでいた。ちょっと相席という雰囲気ではなかったので、ベンチには座らずじまいだった。公園の南の端はちょっとした円形の広場になっているが、回りにいくつかベンチがあるだけで、真ん中の空間は何か意味不明の砂場のような感じになっていた。「緑道」を作った時点で予算を使いきってしまった、そんな雰囲気が濃厚である。

 「緑道」そのものは、地面の配色といい、植えられている潅木といい、悪くはないと思う。しかし、東側にはすぐ都営住宅があり、西側は普通の民家の裏庭に接していてどうも落ちつかない。近所の知り合いに作りすぎた煮物を届けに行って、帰る途中のエプロン姿のおばさんとか、なにやらバイクを手入れしているお兄さんと、それを腕組みしながら近くで見ているおじさんとか、そういった付近住民の濃厚な生活感の中にこの公園はすっぽり包まれている。

 外部のものがこの公園でくつろぐためには、そんな生活感の中にどっぷり溶け込む覚悟が必要だろう。まず、できるだけさりげない格好を心がけたい。例えば、地味なシャツにちょっと汚れたジャンパーを羽織って、スボンはジーパン。さらにサンダルをつっかけていれば完璧である。自宅の半径50m以内に出かけるときしかしないような服装を思い浮かべればよい。天気がいいのでちょっと、ふらっとなごみに来たという様子を演出したい。さらに長居するのも良くない。タバコを一服、あるいはジュースを一本ゆっくりのんだら、さっと引き揚げよう。江戸っ子の頑固おやじが経営する手打ちそばの店と同じである。公園に入ってから、ベンチに座り、適当な間合いでさっと出ていく。「うーん、最近はこういう粋な間合を知ってる江戸っ子はめっきり少なくなったねえ。」とうならせるような心づもりが欲しいところである。

 公園の中程に看板が立っていて、「水面使用許可証」と書いてある。ここは以前、川だったようである。それにしても「水面使用許可」とは奇妙な感じがする。ひょっとして河川には「水上使用権」「水面使用権」「水中使用権」が設定されていて、その利用法に応じてそれぞれ許可を取らなきゃいけないんだろうか。ちょっと馬鹿げてる気もするけど、案外そうかもしれない。以前、「うどん」「冷や麦」「そうめん」は麺の断面の直径に応じて明確に区分されていると聞いて、椅子から落ちそうになったことがある。直径何ミリメートル以上の麺を「うどん」にしようか、などと真剣に議論している姿はかなりシュールなものがある。ハンバーグとハンバーガーも前者は楕円形で後者は円形とはっきり定義されているらしい。それに比べたら「水上」「水面」「水中」の区別はずっと常識的な範囲に入っているとも思える。「水面使用許可証」の看板はこの公園で一番面白いかもしれない。


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<ひばりが丘通信>