新古今集より、千五百番歌合を出典とする歌全九十首を抜き出した。本文は新編国歌大観所収の新古今集(底本は谷山茂博士所蔵の寿本)を使わせて頂いた。
当歌合からの定家の新古今入撰は七首。源通具の十一首、良経・俊成の八首に次ぐ多さである。
春上 春下 夏 秋上 秋下 冬 賀 羇旅 恋二 恋四 恋五 雑上 雑中 雑下
千五百番歌合に 右衛門督通具
0046 むめの花たが袖ふれしにほひぞと春やむかしの月に問はばや
皇太后宮大夫俊成女
0047 梅の花あかぬ色かもむかしにておなじかたみの春の夜の月
千五百番歌合に、春歌 藤原雅経
0074 しら雲のたえまになびく青柳のかづらき山に春風ぞふく
藤原有家朝臣
0075 青柳のいとに玉ぬくしらつゆのしらずいくよの春かへぬらむ
宮内卿
0076 うすくこき野辺のみどりの若草に跡までみゆる雪のむら消
千五百番歌合に 右衛門督通具
0096 いその神ふるのの桜たれうゑて春はわすれぬかたみなるらむ
正三位季能
0097 花ぞ見るみちのしば草ふみわけて芳野の宮のはるの曙
藤原有家朝臣
0098 あさ日かげにほへる山の桜花つれなくきえぬ雪かとぞみる
千五百番歌合に、春歌 皇太后宮大夫俊成
0100 いくとせの春に心をつくしきぬあはれと思へみよしのの花
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成女
0112 風かよふねざめのそでの花のかにかをるまくらの春の夜の夢
千五百番歌合に 藤原定家朝臣
0134 桜いろの庭の春かぜ跡もなし問はばぞ人の雪とだにみん
千五百番歌合に 左近中将良平
0144 ちる花のわすれがたみの嶺の雲そをだにのこせ春の山かぜ
千五百番歌合に 寂蓮法師
0154 おもひたつとりはふるすもたのむらんなれぬる花の跡の夕暮
0155 ちりにけりあはれうらみのたれなれば花のあととふはるの山かぜ
権中納言公経
0156 春ふかく尋ねいるさの山のはにほの見し雲の色ぞ残れる
千五百番歌合に 摂政太政大臣
0209 有明のつれなく見えし月はいでぬ山ほととぎす待つよながらに
杜間郭公といふことを 藤原保季朝臣
0213 すぎにけりしのだのもりの時鳥たえぬしづくを袖に残して
千五百番歌合に 権中納言公経
0216 ほととぎす猶うとまれぬ心かなながなく里のよその夕ぐれ
題しらず 右衛門督通具
0239 ゆくすゑをたれしのべとて夕風に契りかおかむやどのたちばな
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成
0253 大井河かがりさしゆくうかひぶねいくせに夏のよをあかすらむ
藤原定家朝臣
0254 ひさかたの中なる河のうかひ舟いかにちぎりてやみを待つらん
千五百番歌合に 権中納言公経
0265 露すがるにはの玉ざさうちなびきひとむらすぎぬ夕立の雲
千五百番歌合に 前大納言忠良
0269 ゆふづくひさすやいほりのしばのとにさびしくもあるかひぐらしの声
千五百番歌合に 宮内卿
0281 かたえさすをふのうらなしはつ秋になりもならずも風ぞ身にしむ
百首歌たてまつりし時 前大僧正慈円
0282 夏衣かたへすずしくなりぬなり夜やふけぬらむ行あひの空
千五百番歌合に 摂政太政大臣
0293 ふかくさの露のよすがを契にてさとをばかれず秋は来にけり
右衛門督通具
0294 あはれ又いかにしのばむ袖のつゆ野原の風に秋はきにけり
源具親
0295 しきたへの枕のうへにすぎぬなり露をたづぬる秋の初かぜ
顕昭法師
0296 みづぐきのをかのくずはもいろづきてけさうらがなし秋のはつ風
越前
0297 秋はただ心よりおくゆふ露を袖のほかとも思ひけるかな
千五百番歌合に 左近中将良平
0338 ゆふされば玉ちる野べの女郎花枕さだめぬ秋風ぞふく
千五百番歌合に 右衛門督通具
0374 ふかくさのさとの月かげさびしさもすみこしままの野べの秋風
千五百番歌合に 左衛門督通光
0434 さらに又くれをたのめとあけにけり月はつれなき秋のよのそら
千五百番歌合に 前大僧正慈円
0445 なくしかの声にめざめてしのぶかなみはてぬ夢の秋の思ひを
千五百番歌合に、秋歌 権中納言公経
0477 衣うつねやまのいほのしばしばもしらぬゆめぢにむすぶ手枕
千五百番歌合に 定家朝臣
0480 秋とだにわすれむとおもふ月かげをさもあやにくにうつ衣かな
百首歌たてまつりし時 藤原定家朝臣
0487 ひとりぬる山鳥のをのしだりをに霜おきまよふ床の月かげ
左衛門督通光
0513 入日さすふもとのをばなうちなびきたが秋風に鶉なくらむ
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成女
0515 問ふ人もあらし吹きそふ秋はきてこの葉にうづむやどのみちしば
0516 いろかはる露をば袖におきまよひうらがれて行くのべの秋風
千五百番歌合に 春宮権大夫公継
0519 ねざめするなが月の夜の床さむみ今朝ふく風に霜やおくらん
千五百番歌合に 家隆朝臣
0537 露しぐれもる山かげのした紅葉ぬるともをらむ秋のかたみに
千五百番歌合に 権中納言兼宗
0545 行くあきの形見なるべき紅葉ばもあすはしぐれとふりやまがはむ
千五百番歌合に、初冬の心をよめる 皇太后宮大夫俊成
0551 おきあかす秋のわかれの袖の露しもこそむすべ冬やきぬらん
千五百番歌合に、冬歌 源具親
0587 いまは又ちらでもまがふ時雨かなひとりふり行く庭の松風
千五百番歌合に、冬歌 二条院讃岐
0590 世にふるはくるしきものを槙の屋にやすくも過ぐるはつ時雨かな
千五百番歌合に 源具親
0597 いまよりは木のはがくれもなけれども時雨に残るむら雲の月
題しらず 源具親
0598 はれくもるかげをみやこにさきだてて時雨とつぐる山のはの月
だいしらず 殷富門院大輔※
0606 我がかどのかり田のねやにふすしぎの床あらはなる冬のよの月
※歌合では隆信の作。定家は判で「殷富門院大輔先年所詠也、作者定忘却歟」と指摘し、新古今集では訂正されたものらしい。
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成女
0608 さえわびてさむる枕にかげみれば霜ふかきよの有明の月
右衛門督通具
0609 霜むすぶ袖のかたしきうちとけてねぬよの月の影ぞさむけき
千五百番歌合に 正三位季能
0648 さよ千鳥こゑこそちかくなるみがたかたぶく月にしほやみつらん
千五百番歌合に 右衛門督通具
0684 くさも木もふりまがへたる雪もよに春まつ梅の花のかぞする
百首歌たてまつりし時 小侍従
0696 おもひやれ八十のとしのくれなればいかばかりかは物はかなしき
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成
0706 けふごとにけふやかぎりとをしめども又もことしにあひにけるかな
千五百番歌合に 摂政太政大臣
0737 ぬれてほすたまぐしのはの露じもにあまてる光いくよへぬらん
千五百番歌合に 定家朝臣
0739 我がみちをまもらば君をまもるらむよはひはゆづれ住吉の松
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成女
0949 かくしてもあかせばいくよすぎぬらん山ぢのこけの露の席に
千五百番歌合に 家隆朝臣
0970 故郷にたのめし人もすゑの松まつらむ袖に浪やこすらむ
千五百番歌合に 左衛門督通光
1095 かぎりあればしのぶの山のふもとにもおちばがうへの露ぞ色づく
二条院讃岐
1096 うちはへてくるしき物は人めのみしのぶのうらのあまのたくなは
千五百番歌合に 左衛門督通光
1106 ながめわびそれとはなしにものぞおもふ雲のはたてのゆふぐれの空
百首歌たてまつりし時 皇太后宮大夫俊成
1110 あふことはかたののさとのささのいほしのにつゆちるよはのとこかな
千五百番歌合に 摂政太政大臣
1119 なげかずよいまはたおなじなとり川せぜの埋木くちはてぬとも
千五百番歌合に 摂政太政大臣
1126 身にそへるそのおもかげもきえななむゆめなりけりとわするばかりに
五十首歌たてまつりしに※ 前大納言忠良
1128 たのめおきしあさぢが露に秋かけて木葉ふりしくやどのかよひぢ
※出典は千五百番歌合。詞書は誤り。
百首歌の中に、恋のこころを 右衛門督通具
1135 我がこひはあふをかぎりのたのみだにゆくへもしらぬ空のうき雲
千五百番歌合に 摂政太政大臣
1272 めぐりあはむかぎりはいつとしらねども月なへだてそよそのうき雲
1273 わが涙もとめて袖にやどれ月さりとて人のかげは見ねども
権中納言公経
1274 こひわたるなみだやそらにくもるらんひかりもかはるねやの月かげ
左衛門督通光
1275 いくめぐりそらゆく月もへだてきぬちぎりしなかはよそのうき雲
右衛門督通具
1276 今こむとちぎりしことは夢ながら見しよににたる有明の月
有家朝臣
1277 わすれじといひしばかりのなごりとてそのよの月はめぐりきにけり
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成女
1285 ならひこしたがいつはりもまだしらでまつとせしまの庭のよもぎふ
千五百番歌合に 家隆朝臣
1294 おもひいでよたがかねごとのすゑならむきのふの雲の跡の山かぜ
千五百番歌合に 右衛門督通具
1319 ことのはのうつりし秋もすぎぬればわが身しぐれとふる涙かな
定家朝臣
1320 きえわびぬうつろふ人の秋の色に身をこがらしのもりのした露
千五百番歌合に 権中納言公経
1331 つくづくとおもひあかしのうらちどりなみのまくらになくなくぞきく
定家朝臣
1332 たづね見るつらき心のおくのうみよしほひのかたのいふかひもなし
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成
1389 あはれなりうたたねにのみみし夢のながきおもひにむすぼほれなん
千五百番の歌合に 有家朝臣
1478 春の雨のあまねき御代をたのむかな霜にかれ行く草ばもらすな
千五百番歌合に 二条院讃岐
1542 身のうさを月やあらぬとながむれば昔ながらの影ぞもりくる
八十におほくあまりて後、百首歌めししに、よみてたてまつりし 皇太后宮大夫俊成
1560 しめおきて今やとおもふ秋山のよもぎがもとにまつ虫のなく
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成
1561 あれわたる秋の庭こそ哀なれまして消えなん露の夕ぐれ
千五百番歌合に 正三位季能
1604 みづのえのよしのの宮は神さびてよはひたけたる浦の松かぜ
千五百番歌合に 右衛門督通具
1621 ひとすぢになれなばさても杉のいほによなよなかはる風の音かな
百首歌たてまつりし時 二条院讃岐
1636 ながらへて猶君が代を松山のまつとせしまに年ぞへにける
千五百番歌合に 摂政太政大臣
1704 舟のうち波のしたにぞ老いにける海人のしわざもいとまなのよや
千五百番歌合に 摂政太政大臣
1765 うきしづみこむよはさてもいかにぞと心に問ひてこたへかねぬる
百首歌たてまつりし時 土御門内大臣
1814 くらゐ山あとをたづねてのぼれどもこを思ふみちに猶まよひぬる
公開日:平成23年06月10日
最終更新日:平成23年06月10日