橘忠幹 たちばなのただもと 生没年未詳

橘佐為(諸兄の弟)の裔。古今集に歌を載せる長門守長盛の子。東宮学士文章博士直幹の弟。従五位下駿河守。拾遺集・続古今集に各一首。

橘の忠幹が、人のむすめにしのびて物言ひ侍りける頃、遠き所にまかり侍るとて、この女のもとに言ひつかはしける

忘るなよ程は雲ゐになりぬとも空行く月のめぐり逢ふまで(拾遺470)

【通釈】忘れないでください。あなたと私の間は空遠く隔たっても、空を行く月のようにいつか再びめぐり逢うまで。

【補記】この歌は伊勢物語十一段に見え、忠幹の作とするのを疑問とする説もある。

【他出】業平集、拾遺抄、伊勢物語、古来風躰抄、定家十体(麗様)、三五記

【主な派生歌】
思ひ出は同じ空とは月を見よ程は雲ゐにめぐりあふまで(後三条院[新古今])
別れ路は雲井のよそになりぬともそなたの風のたよりすぐすな(行宗 〃)
めぐりあはん空行く月のゆく末もまだ遥かなる武蔵野の原(藤原定家[新千載])
おなじ世の別れはなほぞ忍ばるる空行く月のよその形見に(順徳院[新拾遺])
思ひたつ程は雲ゐに行く雁の故郷とほくかすむ空かな(藤原知家[新後撰])


公開日:平成12年09月02日
最終更新日:平成15年03月21日