神退 しんたい 生没年未詳

伝未詳。近江国滋賀郡の人という(古今和歌集目録)。勅撰入集歌は古今集に一首のみ。

題しらず

清滝の瀬々の白糸くりためて山分け衣織りて着ましを(古今925)

【通釈】清滝川の瀬々の白糸の美しいこと――出来るものならこれをたぐり寄せて巻き取り、山分け衣に織って着ようものを。

清滝
清滝川 京都市右京区

【語釈】◇清滝 清滝川。京都愛宕山麓より保津川に注ぐ。名の通りの「清い滝(激流)」の意をこめる。◇瀬々の白糸 白く見える水流を糸に見立てる。◇くりためて たぐって巻き取る。◇山分け衣(ごろも) 僧や山人が山に分け入って行く際に着た衣。

【補記】古今集巻十七、雑歌上、滝を詠んだ歌群にある。歌枕清滝を詠んだ最初期の歌。清流という自然を衣服という人事に重ね合わせたのは、当時の詠風としては常のことであるが、織って着たいのが清浄であるべき山分け衣であるとしたところに一首の特色があり、そこに作者の生のあり様もおのずと重ね合わされることになる。

【他出】古今和歌六帖、五代集歌枕、定家八代抄、歌枕名寄

【主な派生歌】
清滝や瀬々の岩波たかを山人もあらじの風ぞ身にしむ(高弁[新勅撰])
山姫の滝の白糸くりためて織るてふ布は夏衣かも(藤原良経[続後撰])
くりためて今朝や氷に結ぶらむ清滝川の瀬々の白糸(行意[新続古今])
紅葉葉の山分衣きよたきの白糸ならぬ色にそめつつ(三条西実隆)


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成21年03月09日