大神女郎 おおみわのいらつめ 生没年未詳

伝未詳。大神(大三輪)氏は大物主神(大三輪神)の子大田田根子を始祖とし(崇神紀)、代々大神神社(奈良県桜井市三輪)の祭祀を司った氏族。姓は初め君、天武十三年(684)、朝臣を賜わる。
天平年間、大伴家持に贈った歌が二首ある。

大神女郎の大伴宿禰家持に贈る歌一首

さ夜中に友呼ぶ千鳥もの()ふと侘びをる時に鳴きつつもとな(万4-618)

【通釈】真夜中に友を呼んで鳴く千鳥ったら、私が悩んで辛い思いをしている時に、むやみに鳴き続けてまあ。

【語釈】◇もとな もと(ものごとの根幹、居所などの意)・な(無く、の語幹)から来た語と思われ、「確かな理由もなく、やたらと何かをする」といった状態をあらわす語。憂鬱感や焦燥感を伴う場合が多く、天平期の和歌に愛用された。◇鳴きつつもとな 「もとな鳴きつつ」の倒置。むやみに鳴き続けて、鬱陶しい、いらいらする、といった気持ち。

【補記】万葉集の歌から、古人は鶴や千鳥の鳴き声を「妻呼ぶ」声と聞くことが多かったと知られるが、「つま」(男女問わず連れ合いを意味する)ならぬ「友」を呼ぶ声と聞いたのはこの歌が唯一の例である。大伴家持との交際がいかなるものであったかを暗示していよう。

大神女郎の大伴家持に贈る歌一首

ほととぎす鳴きしすなはち君が家に行けと追ひしは至りけむかも(万8-1505)

【通釈】鳴いた時、即座にあなたの家に行けと追いやった時鳥は、そちらに至り着いたでしょうか。

【補記】当時の人々は時鳥の声を、憂いに満ちた悲しいものと聞くことが多かった。作者もそのような心情であったから、「君が家」に行ってその想いを「君」に伝えてくれ、とほととぎすを追いやったのである。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成20年09月30日