藤原公通 ふじわらのきんみち 永久五〜承安三(1117-1173) 号:閑院按察

権大納言公実の孫。権中納言通季の息子。母は藤原忠教女。公重の同母兄。内大臣実宗・参議実明の父。西園寺公経の祖父。
保安三年(1122)、叙爵。大治二年(1127)、昇殿。侍従・因幡守・右少将・右中将・蔵人頭などを経て、久安六年(1150)、参議。仁平四年(1154)、従三位。保元二年(1157)、権中納言。同三年正月、正三位に昇るが、同年八月、辞職。平治二年(1160)、還任し、永暦二年(1161)、権大納言・従二位。応保二年(1162)、按察使。仁安二年(1167)、大納言を辞す。
保安元年(1120)四月の内裏歌合、嘉応二年(1170)の建春門院滋子北面歌合、承安二年(1172)の広田社歌合などに出詠。承安二年(1172)、自邸で十首歌会を主催。
『歌仙落書』に「歌の体たけ高く、えたる見所なんどはなけれども、うつくしきさまなり」と評がある。千載集初出。

尋山花といへる心を

けふ見ずはあすも尋ねん山桜夜のまのほどにさきもこそすれ(続拾遺55)

【通釈】今日見ることが出来なかったら、明日も山を尋ねて行こう。山桜は、一晩のうちに咲いたりするのだから。

海辺郭公といふ事をよみ侍りける

ふた声ときかずはいでじ郭公いく夜あかしのとまりなりとも(新古206)

【通釈】やっと一声ほととぎすの鳴き声が聞けた。しかしこれだけでは満足できない。二声聞かないうちは、船出はしないぞ、ほととぎすよ。幾夜この明石の泊で明かすことになろうとも。

【掛詞】◇あかし 明石・明かし。

社頭雪といふ心をよみ侍りける

ゆふしでの風にみだるる音さえて庭しろたへに雪ぞつもれる(新古1890)

【通釈】木綿四手が夜の風に吹き乱され、冷たく冴えた音をたてる。そして神社の前庭は真っ白に雪が積もっている。

【語釈】◇ゆふしで 木綿でつくった四手(幣)。神前に供える幣(ぬさ)の一種。玉串や注連縄などに付けて垂らす。

【参考歌】よみ人しらず「後撰集」
夜ならば月とぞみましわがやどの庭白妙にふりつもる雪

 

恋せよと教へし人はなけれどもあかぬよりこそ思ひそめしか(歌仙落書)

【通釈】誰が恋をしろと教えてくれたわけでもないけれど、なにか満ち足りないような思いがした時…その時から、人に恋心を抱くようになったのだ。

【語釈】◇あかぬよりこそ 「飽(あ)く」は満足する意。心に満ち足りない思いがした時が、恋の始まりだ、とした。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日