※工事中未校正

後水尾院 ごみずのおのいん(ごみのお-) 慶長元年〜延宝八(1596-1680) 諱:政仁(ことひと)

  20首  13首  14首  12首  5首
 神祇 4首  2首  30首  計100首

 

世は春の民の朝けの(けぶり)より霞も四方の空に立つらん

【通釈】

【補記】

【本歌】仁徳天皇「新古今集」
高き屋にのぼりて見れば烟立つ民のかまどもにぎはひにけり

 

峰つづき都に遠き山々の限りもみえてのこる雪かな

【通釈】

【補記】

 

水無瀬川遠きむかしの面影も立つや霞にくるる山もと

【通釈】

【補記】

【本歌】後鳥羽院「新古今集」
見わたせば山本かすむ水無瀬川夕べは秋となにおもひけん

 

住の江や春のしらべは松風もひとつみどりの色にかすみて

【通釈】

【補記】

 

うき草のすゑより水の春風や世に吹きそめてのどけかるらん

【通釈】

【補記】

 

大空をおほはん袖につつむともあまるばかりの風の梅が香

【通釈】

【補記】

【本歌】よみ人しらず「後撰集」
大空におほふばかりの袖もがな春さく花を風にまかせじ
【参考歌】藤原教長「久安百首」
大空をおほはん袖につつむとも君がへん世の数やあまらん

 

したはれて来にし心の雁ならばかへる雲路をいかでしるらん

【通釈】

【補記】

 

江の南梅さき()めておそく()くみどりにつづく岸の青柳

【通釈】

【補記】

 

分けみればおのがさまざま花ぞ咲くひとつ緑の野べの小草も

【通釈】

【補記】

 

春の夜の真砂ぢしめる沓の音に音なき雨を庭に聞くかな

【通釈】

【補記】

 

白雲に松も檜原も籠り江に初瀬の山ぞ花に明け行く

【通釈】

【補記】

 

花なれや遠山かづら白妙に霞をかけて明くるひかりは

【通釈】

【補記】

 

ことしげき世をもわすれてつくづくと心をわけぬ花にむかひて

【通釈】

【補記】

 

長閑なる夕べの雨を光にて谷にも春の花は咲きけり

【通釈】

【補記】

 

花なれや春日うつろふ山の端にあたたかげなる雪の一むら

【通釈】

【補記】

 

過ぎかてにけふや暮らさん散りつもる花のうへ行く春の山みち

【通釈】

【補記】

 

うしやうし花にほふえに風かよひちりきて人のこととひはせず

【通釈】

【補記】

 

けふはその水上の月もめぐりあひて咲く影ふかき桃の波かな

【通釈】

【補記】

 

夕ひばり我がゐる山の風はやみ吹かれてこゑの空にのみする

【通釈】

【補記】

 

この夕べ花も残らぬ雨風にきほひて帰る春のさびしさ

【通釈】

【補記】

 

夏来てはひとつ緑もうすくこき梢におのが色は分かれて

【通釈】

【補記】

 

散る花の雪をたためる夏衣かへても春の名残やはなき

【通釈】

【補記】

 

玉かきの風もよきてや神まつる卯月にかかる花のゆふしで

【通釈】

【補記】

 

里まではさしもおくらぬ影なれや卯の花山のかへるさの月

【通釈】

【補記】

 

うとくなるおのが鳴くねも色みえば青葉の花の山ほととぎす

【通釈】

【補記】

 

常磐木に色をわかばの薄萌黄おなじ緑の中に涼しき

【通釈】

【補記】

 

夏の日のけしきをかへて降る音はあられに似たる夕立の雨

【通釈】

【補記】

 

俄にも波をたたへしにはたづみ乾くもやすき夕立のあと

【通釈】

【補記】

 

降る雨のなごり涼しく夏山の緑につづく雲の色かな

【通釈】

【補記】

 

うゑ渡す早苗の末葉しげるらし千草と共になびく夕風

【通釈】

【補記】

 

名残なほ昔おぼえて見し夢の後も枕にかをる橘

【本歌】式子内親王「新古今集」
かへりこぬ昔を今と思ひねの夢の枕に匂ふたち花

【通釈】

【補記】

 

とぶ蛍水の下にもありけりとおのが思ひをなぐさみやせん

【通釈】

【補記】

 

鳴く蝉のこゑも木ずゑにしづまりて涼しく暮るる森の下風

【通釈】

【補記】

 

色みえばこれや初入(はつしほ)紅葉する秋のけしきの森の涼しさ

【通釈】

【補記】

 

いつしかとけふは紅葉の秋もきぬ見しはきのふの花の都に

【通釈】

【補記】

 

千々に身をわくともあかじ秋の花ひとつひとつにとまるこころは

【通釈】

【補記】

 

眺めこしいくよの秋のうさならむ我とはなしの夕暮の空

【通釈】

【補記】

 

世に絶えし道踏み分けていにしへのためしにもひけ望月の駒

【本歌】紀貫之「拾遺集」
逢坂の関の清水に影みえていまやひくらむ望月の駒

【通釈】

【補記】

 

そことなき霧のうち行く浪の音も一すじ見ゆる秋の川霧

【通釈】

【補記】

 

明けぼのや山本くらく立ちこめて霧にこゑある秋の川水

【通釈】

【補記】

 

水の面に吹く跡みえて山本の川風しろきなみのうき霧

【通釈】

【補記】

 

河波に月のかつらのさほさして明くるもしらずうたふ舟人

【通釈】

【補記】

 

浦人の夕べ暁行く舟に浪路をかへて月や見るらん

【通釈】

【補記】

 

月を友といはむもやさし雲の上にすむがすむにもあらぬ我が身は

【通釈】

【補記】

 

分け入れば麓にも似ず紅葉ばのふかきやふかき山路なるらん

【通釈】

【補記】

 

鳴く虫のこゑも哀れやつくすらむ暮れ行く秋のけふをかぎりに

【通釈】

【補記】

 

けふばかりいかでとどめん又来むはおもふに遠き秋の別れを

【通釈】

【補記】

 

ちりそひて山あらはるる木の間より紅葉にかへて滝ぞ落ちくる

【通釈】

【補記】

 

ふみ分くる山路にぞきく落葉して梢の風のまれになる声

【通釈】

【補記】

 

みる人の袖さへこほる小夜風に落葉がのちの月のくまなき

【通釈】

【補記】

 

枯るるより刈りもはらはぬ道みえて雪に跡ある野べの草むら

【通釈】

【補記】

 

千種にもなほかへつべし霜がれの中に一はな咲けるなでしこ

【通釈】

【補記】

 

山風や暮るるまにまに寒からしみぞれに雪の色ぞ添ひゆく

【通釈】

【補記】

 

庭の面は降りもたまらで真砂のみしろき梢の今朝の初雪

【通釈】

【補記】

 

みだれふす蘆間や消ゆる冬の池の波はすくなく積もるしら雪

【通釈】

【補記】

 

暮ふかくかへるや遠き道ならむ笠おもげなる雪の里人

【通釈】

【補記】

 

あま小舟はつ雪なれやわたつ海の波よりしろき奥津嶋山

【通釈】

【補記】

 

白妙の雪こそ光れ夕狩のあかぬ日影をつきてふらなむ

【通釈】

【補記】

 

声すなり夜のまに竹をうつみ火のあたりはしらぬ雪や折るらん

【通釈】

【補記】

 

よしや人それにつけても思ひしらば思はむ方のよそにだにあれ

【通釈】もしも恋人よ、そのことによって私の辛い思いを知ってくれるのならば、その相手が私でなくてもよい、せめて余所に誰かあなたの思う人があってくれ。

【補記】題は「片思」。冷淡な片思いの相手に、少しは自分の辛い心を分かってほしい、そのためなら、あの人に余所に恋人がいても良いから、といった気持。

【本歌】凡河内躬恒「古今集」
吉野河よしや人こそつらからめはやくいひてし事はわすれじ

 

待ちいでてかへるこよひのつれなさはひとり見はつる有明の月

【通釈】

【補記】

 

おのづから見ゆらんものを恨むともしらず顔なるそれも一ふし

【通釈】

【補記】

 

身にそへて又や寝なまし移り香もまださながらの今朝の袂を

【通釈】

【補記】

 

名残なほ逢ふと見えつる夢よりもさだかにむかふ夜半の面影

【通釈】

【補記】

神祇

伊勢

うごきなき下つ岩根の宮柱身をたつる代々のためしならずや

【通釈】

【補記】

寄月神祇

八百万(やほよろづ)神もさこそは守るらめ照る日の本の国津宮古を

【通釈】

【補記】

 

まもれなほよに住吉の神ならば此の敷島の道のまことを

【通釈】

【補記】

隠岐国人被遣候

隠岐の海のあらき浪風しづかにて都の南宮つくりせり

【本歌】後鳥羽院「遠島百首」
我こそは新島守よ隠岐の海のあらき浪風心して吹け

【通釈】

【補記】

 

絶えせじなその神世より人の世にうけてただしき敷島の道

【通釈】

【補記】

 

開きみる文にぞしるきをさまれる御代のかたみや世々の古こと

【通釈】

【補記】

 

百敷や松のおもはんことのはの道をふるきにいかでかへさん

【語釈】「ことのはの道」とは和歌の道。後水尾院の復古精神をよくあらわした名歌。

【通釈】

【補記】

 

散りうせぬためしときけばふるき世にかへるを松のことのはの道

【通釈】

【補記】

 

いかにして此の身ひとつをたださまし国ををさむる道はなくとも

【通釈】

【補記】

 

うけつぎし身の愚かさに何の道も廃れゆくべき我が世をぞ思ふ

【補記】これは後陽成院崩御ののち、追善のために詠んだ歌。

【通釈】

【補記】

八月中旬の頃、中院大納言通村、武家の勘当のことありて、武州にある頃遣はさる

思ふより月日へにけり一日だに見ぬは多くの秋にやはあらぬ

【補記】寛永十二年(1635)、側近の中院通村が江戸に幽閉された時の歌。

【通釈】

【補記】

 

芦原やしげらば繁れ荻薄とても道ある世にすまばこそ

【通釈】芦原は繁栄するがよい。荻や薄のような草でも、繁茂するがよい。そのような雑草の繁る中にも「道」はあるはずだ。「道ある世」に住まばこそ、芦原の繁栄などは意に介すまい。

【語釈】「芦原」は小漁村に過ぎなかった江戸を指し、幕府を暗喩。「荻薄」は美しい花を持たない草。

【通釈】

【補記】

 

曲木(まがりぎ)に柳の糸をよりかけて()ぐなる道を風にとはばや

【語釈】「曲り木」に幕府の邪を、「柳の糸」に自らを暗喩。(柳の葉は、細いが強くしなやかである。)「よりかけ」は括りつけて。「風」は様々な意にとれるが、神意による導きを暗示すると見られる。

【補記】上の二首は、幕府と衝突した結果譲位することになった時に詠まれた歌。

【通釈】

【補記】

 

世の中はあしまの蟹のあしまとひ横にゆくこそ道のみちなれ

【通釈】

【補記】

 

みな人は上に目がつく横にゆく葦間のかにのあはれなる世や

【通釈】

【補記】

 

いにしへのちぎりにかけし帯ばかり一すじしろき遠の川なみ

【通釈】

【補記】

 

思ふぞよ千里の馬を尋ねてもしるらん人はさてもなき世を

【通釈】

【補記】

 

ともかくもなさば成りなむ心もて此身ひとつをなげくおろかさ

【通釈】

【補記】

 

おもふより遠くきぬらし旅衣分くる夏野の草たかくなる

【通釈】

【補記】

 

波さわぐうきねのまくら又うきぬ都のゆめのかへる名残に

【通釈】

【補記】

懐旧(二首)

ひらけなほ文の道こそ古へにかへらん跡は今はのこらめ

【通釈】

【補記】

見ずしらぬ昔人さへ忍ぶかなわがくらき世を思ふ余りに

 

人もこれ草葉もしげし野も広しつむ菜となれば雨もすくなし

【通釈】

【補記】

 

みちみちの(もも)(たくみ)のしわざまでむかしに及ぶ物はまれにて

【通釈】

【補記】

 

さまざまに見しよをかへす道なれや雨夜更け行くともし火の本

【通釈】

【補記】

後鳥羽院四百年忌御追善に霞

こひつつも鳴くや四かへり百千鳥霞へだてて遠きむかしを

【通釈】

【補記】

東福門院崩御の時、弥陀の六字を句の上に置きてあそばしける

()に事も夢の外なる世はなしと思ひしこともかきまぎれつつ

東福門院はもと中宮徳川和子。

【通釈】

【補記】

 

()かひゐてたださながらの俤に一ことをだにかはさぬぞうき

【通釈】

【補記】

 

()け暮れにありしながらのことわざも目の前さらに見る心地して

【通釈】

【補記】

 

()ぬ世まで思ひのこさずとばかりも此の一ことを何にかふべき

【通釈】

【補記】

 

()れに思ひ聞きてもみても驚かぬ世をばいつまで空たのみして

【通釈】

【補記】

 

()たたびはめぐりあはむもたのまれずこの世を夢の契りかなしも

【通釈】

【補記】

一糸和尚への御返歌

うらやまし思ひ入りけむ山よりも深き心の奥のしづけさ

【通釈】

【補記】

 

いかで其すめる尾上の松風にわれもうき世の夢をさまさむ

【通釈】

【補記】

 

故郷にかへればかはる色もなし花も見し花山も見し山

【通釈】

【補記】

御辞世

行き行きておもふもかなし末遠くこえし高根の峰の白雲

【通釈】

【補記】

【本歌】藤原俊成「新勅撰集」
面影に花のすがたを先だてて幾重越えきぬ峯の白雲


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成20年05月15日